連載小説 江上剛『一緒に、墓に入ろう。』 Vol.19 】 骨壺の傍らで麗子のセックスに興奮したのもつかの間……
情深い麗子の姿に癒され、母の死を実感しつつ、ついに言ってしまった言葉
息が苦しいほど、強く、濃厚な接吻の後、俊哉は麗子を見つめて「一緒に墓に入ってくれ。お袋も一緒だ」 と言った。 「いいの?」 「ああ、お前しかいない。一緒に墓に入ってくれるのは……」 俊哉は、自分の発言が非常に重大な意味を持っているのではないかと、頭をよぎったが、そのことは無理に振り払った。 というか、考えないようにした。 今は今、明日のことは明日のこと。相変わらずのいい加減な考えだと言えなくもない。 小百合の母澄江の遺骨に対する冷たい態度を見せられた後なので、麗子の態度は、まるで菩薩のように思えたのだ。 「うれしい? する? ここで」 麗子は囁いた。 「するとも、ここで」 俊哉は言った。麗子は絨毯が敷かれた床に体を横たえた。 俊哉は、もう待てないとばかりにチュニックを引き上げ、タイツを引きずるように下ろした。 「あっ」 俊哉は驚きの声を上げた。 くすっと麗子がいたずらっぽく笑みを浮かべた。 「ノーパンか……。それに」 「俊哉さんから来るって連絡もらってね、ノーパンになってみたの。そしたらタイツの生地があの部分の当たって、なんだか興奮してきたの。ノーパン効果ね」 「道理で、チュニックをまくった時、ぴっちりとしたタイツのあの部分がこんもりを形づくっていてさ、さっきから気にはなっていたんだ。俺も興奮してきてたんだけど、それにしても驚いたよ」 「あそこの毛を剃ったのよ。よく見えるでしょう?」 麗子はそういうと、両足を曲げ、腰を浮かし気味にした。 「ああ、良く見える」 ある高名な小説家が女性のバギナを「小銭入れ」と表現したのを読んだことがある。 麗子のあそこもその表現にぴったりだ。 陰毛をすべてきれいに処理してしまっているので小銭入れの口の部分がきっちり閉じられ、中をしっかりと守っているのがよくわかる。ほんのりと赤みを帯び、少し照りが出ているのは、タイツで刺激されたため、潤いが滲んできたのだろうか。 四十歳になり、それまでの間、この小銭入れはかなり使われてきたはずなのに、そうした痛みや黒ずみはない。まるで生まれたての赤ん坊のように清らかだ。 「どうして剃ってしまったの? 以前からちゃんとムダ毛は処理していたのに」 麗子は、性格も情熱的なところがあるが、陰毛は意外と濃くはなかった。柔らかで、俊哉は、それを手で撫でるのを楽しみの一つとしていた。しかし、そうは言いつつも普段からその手入れは怠らない。 あそこのいわゆるⅤライン、小銭入れの口にあたるIライン、そして肛門の辺りのOラインに毛が生えるのだが、麗子は、それらの毛を美容クリニックでカットしてもらったり、時に脱毛クリームなどで処理してもらっていた。しかしそれでもちゃんとあるべきところに毛が残っていた。 ところが今度はV、I、Oの全ての毛が無くなっていた。いわゆる完全なるパイパン状態だ。 麗子のあの部分を覗き込むように俊哉は体をかがめた。 恥丘は草木一本生えていないし、そこからはきれいに一筋の川ともいえる割れ目が走り、その行きつく先にはこれまた輝くように美しい壺のような入り口が見える。何もかもがきれいにすっきりと見えるため、かつてあったグロテスクよりも爽やかなエロティシズムを感じてしまう。 俊哉は、麗子の小銭入れの口を早く開けたくて、急いで服を脱ぎ始める。 もう俊哉のあの部分は、麗子の固く閉じられた小銭入れの口を無理にでもこじ開けて見せるようとパンツの中から飛び出したくて、今すぐにでも暴れ出しそうだ。 俊哉は、手でVラインと言われる部分を撫でてみた。 今までのふわりとした感触が無くなったのは少し残念な気がしたが、つるつる、すべすべした、新たな感触に興奮が高まって来る。 「どうしたの、これ?」 しかしここまで徹底して脱毛した理由を聞かねばならない、理屈好きの性(さが)が悲しい。 腰を浮かしたままの姿勢で、麗子は「テレビのNHVでね」と言った。 チュニックを引き上げ、下半身がむき出しになっている姿を低い位置で覗いていると、なんだか背徳の気配がしてくる。 NHVは、公営放送局だ。NHVと陰毛を無くすのとどういう関係があるのだろうか。ますます探求心が湧いてくる。ちょっと小銭入れの口の部分に指を当てて、撫でてみた。するりと全く抵抗がない。麗子が、うふんと小さく息を洩らした。 「NHVがどうかしたのか?」 「毛虱の特集をやっていたのよ」 「毛虱? なんだそれ」 毛虱とは陰毛に生息するシラミのことで、性感染症の一種だ。顕微鏡でみると、恐ろしい顔をして、大きなカニ爪のようなハサミで陰毛の根元に食らいつく。これが繁殖すると、死ぬほど痒いらしい。陰毛にしか生息、繁殖しない変なシラミでもある。 「毛虱って人間とゴリラがセックスした名残で、ゴリラからうつされたんだってね」 「まさか、そんなことはないだろう」 「でもNHVが言ってたんだから嘘じゃないでしょう? まあ、それはさておき毛虱の攻撃から人間を守るためにはデリケートゾーンの脱毛しかないらしいの。それでね、その番組で脱毛を始めたサロンの経営者が、私のお陰で毛虱は生育環境を無くしてしまったってドヤ顔で話していたのよ。それでじゃ私もやってみようかな。あんな気持ちの悪いシラミに私の大事な部分を攻撃されるのは嫌だから」 NHVの番組に触発されて脱毛したという。 俊哉は、麗子の下半身をしげしげと覗き込みながら、麗子の話し声を聞いていると、いつしか、その大事な部分が口を開けて話しているような錯覚を覚えて来た。 小銭入れの口金を開け、そっと開いてみる。その瞬間にたらりと透明な液がしたたり流れだした。小銭入れの口の中に閉じ込められていた愛液が出てきたのだ。中はきれいなサーモンピンクで液でてれてれと光っている。 「まさか、毛虱をうつされたからじゃないだろうな」 指で小銭入れの中を探りながら聞く。いつもより何もかもが鮮やかに見えるから、興奮がいや増しに高まって来る。 「そんな馬鹿なことはないわよ。ちょっとNHVの番組に触発されて、やってもらったの。でも本格的にレーザーとかでしたわけじゃないから、また生えてくるわよ。その時はチクチク痛いかも……」 俊哉の指の動きに合わせて、麗子の息遣いが荒くなる。 「毛虱とおさらばする番組を見て、脱毛するなんて麗子も変わってるな」 指を激しく動かす。小銭入れの口からは愛液が大量に流れだし始めた。脱毛して、より感じやすくなったのだろうか。 「俊哉さん、もう、早くして。脱毛してセックスの具合が良くなるか試したいのよ」 麗子が、さらに高く腰を上げた。 俊哉は、全裸になると、麗子の両足を抱え、脱毛し、全てを晒している麗子の大事な部分を見つめると、開いている小銭入れの口に向かって、いつも以上に猛っている自分の物を突き立てた。それはぬるぬるとした愛液にたちまち取り込まれ、奥深くへと吸い込まれるように入って行った。 麗子が、小さく息を止めると、その後、細く長い悲鳴のような声を上げた。 俊哉は、もっともっとその小銭入れの奥の奥を探求したくて、腰を動かし、自分の物を深く深くその中に刺しいれていく。 コトンと小さな音がした。 その方向に目をやると、サイドボードの上に置かれた母澄江の遺骨を納めた木箱が、少し動いていた。 俊哉の腰の動きに影響されて動いたのだろう。俊哉は、母澄江の気配を感じた。 「お袋……」 俊哉は、腰の動きを止めることなく呟いた。 <続く> 作家。1954年、兵庫県生まれ。77年、早稲田大学政治経済学部卒業。第一勧業(現みずほ)銀行に入行し、2003年の退行まで、梅田支店を皮切りに、本部企画・人事関係部門を経て、高田馬場、築地各支店長を務めた。97年に発覚した第一勧銀の総会屋利益供与事件では、広報部次長として混乱収拾とコンプライアンス体制確立に尽力、映画化もされた高杉良の小説『呪縛 金融腐蝕列島II』のモデルとなる。銀行在職中の2002年、『非情銀行』でデビュー、以後、金融界・ビジネス界を舞台にした小説を次々に発表、メディアへの出演も多い。著書に『起死回生』『腐食の王国』『円満退社』『座礁』『不当買収』『背徳経営』『渇水都市』など多数。1
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