埴輪を見れば古墳時代の社会が見えてくる

今城塚古墳埴輪祭祀場にあるさまざまな埴輪(大阪府高槻市)縮小

今城塚古墳埴輪祭祀場にあるさまざまな埴輪(大阪府高槻市)­


そもそも埴輪とは何なのか?

 古墳時代の文化は非常に造形性に富んでいます。巨大な前方後円墳の存在と、埴輪の存在が形における一大文化を形成しています。

 埴輪は後に大陸から仏像が入ってくると、素朴で幼稚な表現であり造形性や芸術性の点で仏像に劣るとして評価されませんでした。しかし、埴輪の文化は縄文時代の土偶・土器の文化に続く優れた人間文化であると私は考えています。土偶が奇形を表現したり、土器が水を表現したりというように、埴輪も神道に根差した信仰の像だと考えられます。

『日本書紀』にも書かれていますが、埴輪は本来、殉死者が出ないようにその代わりとして死者とともに埋葬したものです。その表現は非常に多岐にわたっていて、人型の埴輪だけでなく、家や船、動物の形の埴輪もありますし、奇妙な造形性を持ったものや2メートルもある巨大なものもあります。人にしても、兵士や巫女や楽器を持った人がいたり、漁師がいたり軍人がいたりと非常に多様です。

いろいろな埴輪がつくられた理由

 埴輪の多様性は共同体の全体性を表現しているようです。家の形をした埴輪や導水形をした埴輪(猿塚古墳)があるということは、共同社会が非常に強く意識されていることを示しています。その中で人々が役割分担をしていくというのが日本社会の基本的な人間のあり方です。

 そのため、階級で人間を規定するのではなく、さまざまな姿の人間の埴輪がつくられているわけです。美的であることを求めるより、社会の形態や人間のあり方を示そうとしているのです。

 一つひとつの埴輪の姿を見ていくと、亡くなった首長の社会的業績もわかります。特に天皇家に関係する人だけがつくることができた前方後円墳に埋葬されていた埴輪を見ると、天皇がどのような統べ方をしていたかが予想できるようです。社会の機能、人々の役割、運営の方法などが埴輪を通して表現されているからです。

埴輪は語る――その資料的価値

 だから、埴輪には写実的・シンボル的な記録としての形態が表わされていると考えられます。役割としてつくられているのです。軍人の埴輪は鎧(よろい)をつけて兜(かぶと)をつけています。しかし顔には特徴がありません。それを見ると、すでにこの時代に役割として軍隊があったことがうかがえます。埴輪だから史料にならないということではなく、その形が文章に代わって表現するものが貴重な記録になっているのです。埴輪を形態的史料として見ると、その社会が明らかに統一国家であり、そこに天皇を中心とした社会があったということがはっきりわかります。

 つまり、その社会とは役割社会であったと私は考えるのです。というのは、支配者とそれに従う人間という関係性を示す埴輪がないからです。もちろん天皇はおられましたが、それ以外の人たちの姿はそれぞれの役割としてつくられていて、階級として偉い人が大きくつくられたとしても、それは一つの役割なのです。豊かな人、力の強い人の人物像も威嚇的ではありません。そうした人たちが上に立って下の者を従えるといった社会構造は埴輪の表現の中には見られません。すべての人が平等につくられているわけです。日本には位階はありますが、それは役割分担の社会を表すものと考えることができるのです。

 埴輪を一つの史料として見ると、その中に造形的に優れたものもあります。しかし、それは工人の技術としての上手下手によるもので、埴輪そのものはだいたい同じ基準でつくられています。それは、当時の社会にある種の統一性があったことを示しているといえるでしょう。このあたりからも、古墳時代にすでに立派な大和国が成立しており、天皇が大王として統治を行っていたという社会の風景が見えてくるのです。

(出典=田中英道・著『日本国史――世界最古の国の新しい物語』育鵬社)

田中英道(たなか・ひでみち)
昭和17(1942)年東京生まれ。東京大学文学部仏文科、美術史学科卒。ストラスブール大学に留学しドクトラ(博士号)取得。文学博士。東北大学名誉教授。フランス、イタリア美術史研究の第一人者として活躍する一方、日本美術の世界的価値に着目し、精力的な研究を展開している。また日本独自の文化・歴史の重要性を提唱し、日本国史学会の代表を務める。著書に『日本美術全史』(講談社)、『日本の歴史 本当は何がすごいのか』『日本の文化 本当は何がすごいのか』『世界史の中の日本 本当は何がすごいのか』『世界文化遺産から読み解く世界史』『日本の宗教 本当は何がすごいのか』『日本史5つの法則』『日本の戦争 何が真実なのか』『聖徳太子 本当は何がすごいのか』『日本の美仏50選』『葛飾北斎 本当は何がすごいのか』『日本国史――世界最古の国の新しい物語』(いずれも育鵬社)などがある。





関連記事