都市の強靭化: 六本木ヒルズのエネルギー・イノベーション8

「強靭化」による都市の発展

 このように、都市インフラとしてのCGSを面的に導入し、BCDを都心のコア部に形成していくことは、都市のさまざまな魅力を高める効果を持っているのである。  このことはつまり、「グローバル化」の流れがいまだ一定の力を持ち続けている現代において、「都市の国際競争力それ自体を飛躍させる」力を持っていることを意味している。  そしてその帰結として、その都市自体の発展が、強靭化を起点としてもたらされることとなる。これが、都市強靭化の第五の、そして最大の波及効果である。  そもそも多国籍企業が、アジアの拠点をどこに置くのかを考えた時、東京は、その地震リスクの高さが大きなネックとなっているのが実態であった。  例えば、東京は災害に対する強靭性で、13位にとどまっており、これによって経営者視点ランキングが9位という低い水準になっている。  さらに総合ランキングでも、東京は実にさまざまな高度な都市機能を持っているにもかかわらず、4位にとどまっている。もしも自然災害に対する脆弱性が解消できるなら、これらランキングが上昇することは明らかだ。  だから、このCGSの面的導入に基づく事業継続地 区BCDの形成を通して、都市全体の強靭性を高めることができれば、東京の国際競争力はどのような都市にも劣らない「最強」水準に達するものと期待されるのである。  このことはつまり、「強靭化」は、ただ単に狭い意味での防災力を高めるだけにとどまらない、重大な効果を多面的に及ぼし得ることを示している。

「有事」に有用なシステム

 そもそも「有事」において有用なシステムを導入すれば、そのシステムは地震が発生しない「平時」においても、大きなメリットを発揮する。だから強靭化の取り組みは、災害時以外の平常時にもメリットをもたらし得る。  そして、その対象の価値それ自体は、平時と有事の双方 を総合的に評価することで得られるものであるから、強靭化は自ずと、その対象の価値を比較的に増進させる効果を持つのである。  かくしてCGSの面的導入による地区エネルギーの強靭化は、平常活動時における省エネや環境対策に貢献すると同時に、その地区の資産価値と国際競争力の増進をもたらし、それを通して、都市を根底から発展させる力を持っているのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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