日本を救う水力発電イノベーション3

発電力を効果的に増強させる、ダムの「かさ上げ」

 こうした背景の下、今、進められているのが、「既存のダム」の有効利用だ。 新しいダムを一から作るには、大規模な工事のみならず、そのための調査や用地買収などに 多大な時間とコストがかかる。  しかし、既存の「発電ダム」を強化して、より多くの電気を発電するようにするなら、追加コストを最小限に抑えつつ、発電量を増やすことができる。  こうした問題意識の下、今、進められている代表的な事例が、既存ダムの「かさ上げ」によって、発電量を増加させようというみである。  例えば、北海道の石狩川水系の上流部にある「桂沢ダム」は、 約 12 m(約2割)かさ上げして「新桂沢ダム」にリニューアルするという「ダム再開発事業」が進められている。  これにより、ダムの総貯水容量が約6割増強、発電容量は 42 %増強 された(非洪水期は7410千㎥→10530千㎥、洪水期は6570千㎥→9366千㎥)。  そもそもこの桂沢ダムは、下流側の洪水対策(つまり、治水) や、水道水やかんがい用水を貯めておくため(つまり、利水)など、さまざまな目的のために作られた「多目的ダム」であり、その多様な目的の中の一つに「水力発電」が含まれていた。  そして、そうしたさまざまな目的を「増強」するために、「かさ上げ」事業が行われることとなったのである。  そしてこのかさ上げ事業を通して、発電に関する能力は、(先 に示したように)発電に使用する容量が 42 %増加すると同時に、最大出力も約1.7万 kw へと約 12 %拡大した。  こうしたかさ上げを通した「発電能力」の増強には、二つの明快な理由がある。第一に、上述したように「わずか」なかさ上げでも、貯まる水の量(貯水量)は大きく増加するからである。  そもそもダムは「裾野の広い山」のような形をしているため、「ダム湖」は深い所よりもより浅く水面に近い所の方がより「広く」なっている。  したがって「かさ上げ」をすれば、「広い領 域」で水が貯まり、貯水量が大きく増加するわけだ。 このことは、「すり鉢」に水を入れていく時をイメージするとわかりやすい。 「狭い領域」しかない底の方ではわずかな水を入れるだけで 水深が上がるが、「広い領域」を持つ上の方ではかなりの水を入れないと水深が上がらない。 つまり上部の方が容量が大きいのであり、したがって、かさ上げで少し高くするだけでも、貯水量は大きく増加するのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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