『大きな努力で小さな成果を』について(5)

鍵山5(新:表2:縮小)

『大きな努力で小さな成果を』のカバー袖にある著者の言葉

敢えて掲げた「大きな努力で小さな成果を」

 編集者である私も企業人である。経済人として現実に求められているのは、本書のタイトルとは正反対の「小さな努力で大きな成果を」であるのかもしれない。  だが、己の利益、目先の利益、自社の利益を追求するあまりに、人々がそれぞれの人生の目的を考えもせず、浮足立った生き方をしていたら、世の中はすさみ、社会全体の利益、日本の国益、世界全体の調和といったものも失われていってしまうだろう。  『大きな努力で小さな成果を』は、物質的な豊かさの中で心の荒廃が進む日本人への警鐘の書だ。  鍵山先生はこう述べている。  「かつての日本人は、今日のような、目先の利益だけを追い求める、『今だけよければ、自分だけよければ』というような自己中心的な生き方を『はしたない、浅ましいもの』とし、『損得』よりも『善悪』を、『私』よりも『公』の利益を、自らの行いの判断基準として重視していたように思われます。それが社会や国家を守る、最善のしきたりであるということを、すべての人が知っていたからです。それは日本人の祖先が、何千年もかけて、自分の血と汗を注ぎ込んで育んできたものに違いありません。ですから、せっかく私たちの祖先が残してきてくれたものを、私たちの世代で失ってしまっては、先祖に対しても、後世の人たちに対しても、申し訳ないことになってしまいます。なんとかして、後世に伝えたい、それが私の願いです」  こうした著者の思いを象徴する言葉として「大きな努力で小さな成果を」を、時流に逆らい、タイトルとしたしだいである。  まだまだお伝えしたいことはたくさんあるのだが、ぜひ、ご自分で手に取って読んでいただきたい。人生の糧となる一冊である。 鍵山秀三郎(かぎやま・ひでさぶろう) 昭和8(1933)年、東京生まれ。昭和27(1952)年、疎開先の岐阜県立東濃高校卒業。昭和28(1953)年、デトロイト商会入社。昭和36(1961)年、ローヤルを創業し社長に就任。平成9(1997)年、社名をイエローハットに変更。平成10(1998)年、同社取締役相談役となり、平成20(2008)年、取締役辞任。平成22(2010)年、退職。創業以来続けている掃除に多くの人が共鳴し、その活動はNPO法人「日本を美しくする会」として全国規模となるほか、海外にも輪が広がっている。著書に『凡事徹底』『続・凡事徹底』(以上、致知出版社)、『鍵山秀三郎「一日一話」』『すぐに結果を求めない生き方』(以上、PHP研究所)などがある。
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