日本を救う水力発電イノベーション5

既存ダムに、「逆調整池ダム」を新たに作る

 まず、電力需要のピーク時間帯には、宮ヶ瀬ダムから、一気に大量の水を放流(最大22㎥/sec)し、これによって「ピーク発電」を行う。  一方で、そこで放流された水を一旦、直下の逆調ダムで貯める。そしてその水を逆調ダムから少量ずつ(7㎥/sec)排出し、そこで「ベース発電」を四六時中行い続ける。  こうしておけばピーク発電に伴い大量に放流をしても、下流側には逆調ダムによって調整された少量の水(7㎥/sec)が放流されるだけとなり、下流側の水位を安定化することができる。  つまり、逆調ダムを設置すれば、最低限のベース発電を継続できるうえに、電力需要に応じて発電量を柔軟に増加させることが可能となるのである。  そしてそれはもちろん、ピーク時を含めた需要増加に対応するための「火力発電量」の縮減が可能となることを意味している。  なおこうした逆調ダムは、現在全国で数カ所設置されている一方、逆調ダムが設置できるにもかかわらず未設置のままのダムはそれ以上に存在しているのが実状だ。

「採算性」という壁

 以上の取り組みは、発電可能なダムポテンシャルの拡大を図るものであったが、それ以外の方法として考えられるのが既設の非発電ダムに発電機を設置して、水力発電を始める、というタイプのものだ。  そもそもダムというものはさまざまな目的で活用される。洪水対策や、生活用水や工業用水を確保するため等、水力発電以外のさまざまな用途のために作られている。  これは逆に言うなら、日本国内には、大量の水が貯まっているにもかかわらず「水力発電」に活用されていないダムが数多く存在しているということを意味している。  これは誠にもったいない話だ。資源のない国日本で限られた純国産エネルギーである「ダムに貯められた大量の水」が発電に活用されず、その代わりに毎年大量の石油やガスを外国から買い続けているからだ。  いわば、ダムに貯められた大量の水は、そこに新たに発電機を設置すれば、石油やガスと同じ価値を持つ極めて貴重な資源へと転換することになるのだ。  しかし、これまでに、既存ダムに「大規模」な発電施設を新設する、というタイプのダム再開発事業は行われていない。  これはなぜかと言えば、さまざまな理由はあるものの、最大の理由はやはり、発電事業には「採算性」が不可欠だからである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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