話題の扶桑社新書『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』出版記念オンライントーク開催!
野嶋剛(著者、ジャーナリスト)×矢板明夫(産経新聞台北支局長)が激論!
7月2日に発売され大きな反響を呼んでいる『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)の著者でジャーナリスト、大東文化大学特任教授の野嶋剛さんと、中国などに関して多くの優れた著書を発表している産経新聞台北支局長の矢板明夫さんが、台湾と日本の新型コロナウイルス対策についてあらゆる角度から語り尽くす育鵬社オンライン〈Zoom〉セミナーが、7月17日夜、開催され、日本や台湾から約100名が参加した。 感染者451人、死者7人の台湾(7月15日現在)と、感染者約2万3000人、死者984人の日本(同)、この差はなぜ生まれたのか。 新聞記者として第一線で台湾や中国を取材してきた両氏が、台湾のコロナ対策の成功の原因について論じつつ、台湾の対策とも深く関わる中国政府のコロナ対応についても検証した。また、日本のコロナ対策の問題点についても議論が交わされた。後半では、参加者からの質問にパネリストが答えた。 まず最初は、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』の著者でジャーナリストの野嶋剛氏が出版の動機や背景について語った。『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』を書いた理由
7月2日に、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)という本を出版しました。おかげさまで早速増刷するなど売れ行きは好調で、日本社会が台湾のコロナ対策に関心を持っていることが追い風になっていると思っています。 現在、このコロナ禍の中で、日本は混迷を極めています。日本にいると、今、いったい何が起きているのか、まるで自分が迷路に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥りそうになります。 一方で、台湾は非常にクリアな形で新型コロナウイルスの押さえ込みに成功し、すでに、アフターコロナの方に踏み出そうとしています。 そういう両極端の立場にある日本と台湾の現状について、またこれからの日本と台湾について議論することはとても意義のあることだと思います。 まず、どうしてこの本を書き始めたのかということですが、コロナの問題が起きてから、日本の新聞、ニュース、ワイドショーで「台湾のコロナ対策すごいじゃないか」とかなり取り上げられています。 台湾について、今まで日本では旅行、観光、選挙、歴史について取り上げられることはありましたが、最近はコロナ対策に成功した台湾について、もっとよく知りたいという欲求が高まってきているのを感じます。 一方で、日本におけるコロナ対策は、正直よく分かりません。マスクはいつ手に入るのか、「日本モデル」とは何なのか、そもそも日本のコロナ対策はうまくいっているのか、いっていないのか、誰が言っていることが正しいのか、PCR検査はもっとするべきなのか、しなくていいのか、など分からないことだらけで、とにかく毎日モヤモヤしているわけです。このモヤモヤ感をスッキリさせたいという個人的な思いもありました。 そこで、台湾のコロナ対策に関して日本で報道されている断片的な情報を取りまとめて、総合的な紹介をし、その中から日本が学ぶべき点についても言及できればと思い、この本を書きました。 本書は、4月上旬に編集者から執筆の依頼があってから、1か月半ぐらいで原稿を書き上げ、私の執筆人生の中でも最速の本になりましたが、内容も新書判で272ページあり、想像以上に豊富な中身になったのではないかと、ささやかながら自負しています。台湾のコロナ対策、成功の三つのポイント
7月15日現在、台湾は感染者451人、死者7人、かたや日本は感染者約2万3000人、死者984人、東京では今日も293人の感染者が出ています。人口は台湾の2350万人、日本が1億2500万人と人口比で6倍ありますが、それにしてもあまりにも差が開いています。 ヨーロッパやアメリカと比べると日本は成功しているという説もありますが、どうして低い方ばかり見るのかと私は思います。コロナ対策で効果を上げている台湾やベトナム、香港、韓国、東南アジアの国々などと比べてみると、やはり日本はうまくいっていないと言わざるを得ません。 では、台湾がどうしてコロナ対策に成功したのか、大きく三つのポイントがあります。 (1)対中防疫デカップリングを決断(戦略的優先順位の明確化) (2)政府と国民の適度な緊張関係(民主主義が健全に機能) (3)失敗経験からの確実な学習(2003年SARSから2020年までの努力の成果) (1)についてですが、「デカップリング」とは、「引き離す」ということです。台湾は中国との関係を「引き離す」という決断を素早くしました。 これができたのは、戦略的優先順位が明確だったからだと思います。経済において中国との関係は大事です。観光も中国からの大量の観光客が来なくなったら困ります。日本はあっちも取りたい、こっちも取りたいと優先順位を付けることに苦労し、なかなか決断できませんでした。しかし、台湾は素早く対中遮断を決め、それがうまくいきました。 (2)ですが、私は台湾の「民主主義」が非常に重要な役割を果たしたと思います。つまり、政治がうまくいけば国民は支持する、政治が失敗すれば国民は選挙でその政権を引きずり下ろす、という民主主義が機能しているということです。 台湾では1996年以来、7回の総統選挙が行われていますが、3度の政権交代が起きています。ですので、政権も有権者の意向を非常に気にします。だから、ここで頑張らなければ国民の支持を失うため、政権与党の民進党は頑張ってコロナ対策に励み、国民もそれを認めたということがあります。 (3)ですが、台湾は2003年のSARSで非常に苦しい思いをし、その後の17年間を決して無駄には過ごしませんでした。一方、日本でも2011年に新型インフルエンザがありましたし、2003年のSARSの時にはこのような問題が今後日本でも起こり得るということは分かっていたはずなのです。今回、コロナ対策がうまくいかなかった国々は、SARSの経験やその後の感染症の経験を充分に活かしきれなかったと言えると思います。蔡英文政権の「天の時、地の利、人の和」
「天の時、地の利、人の和」とよく言われますが、台湾のコロナ対策について、蔡英文政権にはその三つが備わっていたと思います。 ◎天の時=コロナ流行にぶつかったのが、米中新冷戦の最中であり、かつ総統選挙期間中であったこと。 ◎地の利=入境管理しやすい島国であり、大きすぎない人口規模であったこと。 ◎人の和=蔡英文政権に公衆衛生と医療に強い人材が揃っていたこと。 「天の時」ですが、まず米中新冷戦の最中のために中国を遮断しやすかったこと、そして、総統選挙期間中だったために政権に勢いがついて緊張感もあった、まさに天が味方をしたのだと思います。 「地の利」については、台湾が島国で入境管理がしやすかったことと、大き過ぎない人口規模のため、感染症対策を実行しやすかったと思います。 それから「人の和」ですが、蔡英文政権に多くの公衆衛生と医療に強い人材が揃っていたことはやはり大きかったと思います。 台湾では、『Newsweek』の表紙にも登場した、IT担当大臣のオードリー・タン、マスク生産を管轄した沈栄津・経済部長、そして指揮センターの指揮官を務めた陳時中・衛生福利部長、陳建仁副総統(当時)、そして蔡英文総統と、日替わりで防疫の英雄が出てきて人材が活発に動きました。 日本の場合は今回のコロナ対策で名を挙げた政治家はまだ一人もいません。このように比較してみると、台湾は政権内にいた人材がそれおれの専門を生かして活躍した結果、抑え込みがうまくいったとも言えるでしょう。 【野嶋剛(のじまつよし)】 ジャーナリスト、大東文化大学社会学部特任教授。元朝日新聞台北支局長。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て2016年4月に独立し、中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に、活発な執筆活動を行っている。『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『銀輪の巨人 ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま新書)=第11回樫山純三賞(一般書部門)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)等著書多数。最新刊は『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)
『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 ①“攻め"の水際対策 ②ためらいなく対中遮断 ③“神対応"連発の防疫共同体 “民主主義"でコロナを撃退した「台湾モデル」の全記録! |
ハッシュタグ
ハッシュタグ
おすすめ記事