北朝鮮の最高指導者である金正恩委員長の妹、金与正氏とは何者か?

『北朝鮮を正しく理解するためのチュチェ思想入門』連載第1回 <文/篠原常一郎:元日本共産党国会議員秘書>

金与正氏登場

 2019年来、北朝鮮の最高指導者である金正恩【キムジョンウン】朝鮮労働党委員長の健康不安説が表面化し、2019年12月28日から開始された朝鮮労働党中央委員会総会は、30年ぶりといわれる異例の長い会議になりました。31日までの4日間、国家の基本問題について議論されるということでしたが、その内実は、健康を壊したか、あるいは何らかの理由で表面に出れなくなった金正恩氏の補佐体制をどうするのか、ということに検討の内容が費やされていたことが分かりました。  この度、朝鮮労働党の全党員会議で党組織指導部第一副部長と本部党責任秘書を、金与正【キムヨジョン】氏が兼務することが確認されました。金与正氏とは金正恩委員長の実の妹です。1988年生まれで、父親は故・金正日【キムジョンイル】総書記、まさに「革命的血統」の一部を担う人です。  金与正氏が政治の表舞台に出てきたのは2014年9月。このときも金正恩氏に同行して現れたのですが、金与正氏が出てきた後の一か月間、金正恩氏は政治の表舞台から姿を消していました。事実上、兄が政治の枢要な役割から外れている間、全体に睨みを利かす役割を果たしたと言われています。  金与正氏は同年11月に、中央委員会副部長という肩書きが発表されました。また、2018年4月に行われた文在寅【ムンジェイン】大統領と金正恩最高指導者の南北首脳会談には、随員として同行して、写真も一対一で撮られました。ちなみにこの写真は文在寅大統領と対等の立場で握手していると、非常に注目されました。

2018年4月27日の板門店の韓国側施設「平和の家」で行われた南北首脳会談。一番右が金与正氏。(ウィキペディアより)

 実はこの後も兄に同行し、大連で中国の国家主席等のナンバーワンである習近平氏に会った際は、90度の角度でお辞儀をして相まみえています。  筆者は2019年に文在寅大統領が朝鮮労働党の秘密党員であるということをスクープしました。要するに、党内の格は文在寅大統領よりも金与正氏の方が上だということを表したエピソードではないかと思えます。

金正恩氏の重病説と金平一氏の帰国

 北朝鮮は、金日成主席を建国の父として、この血統に連なる革命的血統が、最高領導者としての地位を世襲していくことが基本思想となっています。  第2代目の指導者は、金正恩氏の父である金正日氏でした。2011年に逝去しています。その後、服務期間を経て2013年に事実上の最高指導者になったのが金正恩氏です。1984年生まれで現在はまだ35歳ですが、ここにきて健康不安説が出ています。  1月1日には、毎年恒例だった新年次の施政方針全体を表明する演説を金正恩氏が行えなかったことで、金正恩氏の健康不安説は、ますます信ぴょう性を増しています。  一部の韓国の情報系のネット系メディアでは、生死不明あるいはもう既に金正恩氏は死んだのではないかということまで、報じられています。  それと注目すべきは、北朝鮮の外交官で在外公館の大使を歴任してきた金平一【キムピョンイル】氏が、31年ぶりとなる2019年11月、妹の金慶真【キムギョンジン】氏と共に帰国しています。  この人は唯一、生存している金日成主席の実の子息です。そもそも、なぜ彼が31年もの間、海外で外交官を務めていたのかというと、容貌が父の金日成に非常に似ており、国民的人気がある人物で、それ故に権力の核心層から疎んじられていた。そこで海外に飛ばされていたわけです。  この金平一氏、指導者を引き継いだ金正日氏とは母が違います。金正日氏の母は最初の婦人の金正淑【キムジョンスク】氏ですが、金平一氏の母は2番目の婦人である金聖愛【キムソンエ】氏です。  金聖愛氏は2014年に亡くなったとされています。妹の金慶真氏には、在外公館に勤務する金光燮【キムクァンソプ】氏という大使の夫がおり、彼も一緒に帰国したと言われています。  この帰国については、実はいろいろな臆測もされていました。革命的血統を安定させるために粛清されるのではないかという推測もありましたが、そういった話は今のところ出ていません。 【篠原常一郎(しのはらじょういちろう)】 元日本共産党国会議員秘書。1960年東京都生まれ。立教大学文学部教育学科卒業。公立小学校の非常勤教員を経て、日本共産党専従に。筆坂秀世参議院議員の公設秘書を務めた他、民主党政権期は同党衆議院議員の政策秘書を務めた。軍事、安全保障問題やチュチェ思想に関する執筆・講演活動を行っている。著書に『なぜ彼らは北朝鮮の「チュチェ思想」に従うのか』(岩田温氏との共著、育鵬社)、『日本共産党 噂の真相』(育鵬社)など。YouTubeで「古是三春(ふるぜみつはる)チャンネル」開局中。
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