日本を港湾インフラ・イノベーション:「基幹航路」を守り、日本を守る2

欧米との「基幹航路」が三分の一にまで激減した

 こうした理由から貿易コストの抑制は日本の繁栄にとって極めて重要な課題なのであるが、近い将来にそれが一気に上昇してしまう危機に、わが国は今、直面している。  北米やヨーロッパと日本を直接結ぶ貿易のための航路、すなわち「基幹航路」が、失われてしまいかねない状況にあるからだ。  今から約20年前の1998年と2016年現在の京浜、伊勢湾、阪神の3大港湾に寄港する「基幹航路」の便数の推移を見てみるとよくわかる。  わが国にはかつて、欧米との間に120便/週もの基幹航路があったのだが、年々減少し続け、今日ではそのおおよそ三分の一の水準にまで激減してしまっている。  これはもちろん、「日本と欧米との間の貿易が縮小」したからもたらされた帰結ではない。むしろ、貿易量それ自体はグローバル化の進展に伴い拡大している。  この基幹航路の便数の大幅な縮小は、日本・欧米間の船舶が「直行便」から「釜山や上海、香港」などを経由する「経由便」へと転換していったことの帰結なのである。  この「経由便」について、もう少し詳しく説明しよう。  日本各地の港からまずは、小さな船で釜山や上海等に荷物(コンテナ)が運ばれ、そこでいったん荷下ろしする。そして次に、より大きな船にその荷物(コンテナ)を積み替え、欧米へと運ばれるのである。  もちろん、その逆も然り。欧米から釜山や上海などに大きな船で運ばれ、そこでより小さな船に積み替えて、日本各地の港へと荷物が運ばれるわけだ。  言うまでもなく、積み替えが必要な「経由便」の方が、「直行便」より、コストが高くなってしまう。  それにもかかわらず、なぜわざわざこんなややこしい「経由便」が増えてきたのかと言えば、貿易のための「コンテナ船」が年々大型化していったからなのだ。  また、過去半世紀の間、「最も大きなコンテナ船」が、いくつのコンテナを積むことができるのかという積載可能個数(TEU)の推移をみてみる。  80年代は5000個程度のサイズだったのだが、21世紀に入ってから急激に大型化が進み、最近では1万5000個から2万個程度まで積めるほどの超巨大なコンテナ船が使われるようになっている。  なお、こうして急速にコンテナ船が大型化していったのは、一度に大量に運ぶ方が「コンテナ一つ当たりの輸送コスト」が安くなるからである。  ではなぜ、コンテナ船が大型化すると直行便が少なくなるのかと言えば──その理由は至って簡単だ。日本の港の「深さ」が十分でなかったからだ。  結果、船が大型化していくにつれて、日本に寄港できなくなっていったのである。  港湾における「必要岸壁水深」の推移を見てみると、2000年前後までは、「水深15m」の岸壁さえ用意しておけば最も大きな船でも受け入れることができた。  しかし、2000年代中盤から、最大の船は「18mの水深」を必要とするようになっていったのだが、わが国にはしばらく、18m水深のコンテナ船が立ち寄れる港が、一つも存在していなかったのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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