ペドロ・モラレスと“1971年のニューヨーク”――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第9回

「フミ斎藤のプロレス講座別冊」WWEヒストリー第9回


 ペドロ・モラレスは、1971年2月8日、イワン・コロフを下しWWWF世界ヘビー級王座を獲得した。7年8カ月にわたりニューヨークの格闘技の殿堂、マジソン・スクウェア・ガーデンの主役をつとめたブルーノ・サンマルチノから“70年代のスーパースター”への政権交代だった。

リングサイドに群がるファン

リングサイドに群がるファンに、人気レスラーが試合前にサインをするという光景も70年代前半のニューヨーク・マットの定番シーンだった。(米専門誌『レスリング・レビュー』=1972年より)

 かつてサンマルチノがそうであったように、モラレスもまた28歳でニューヨークのチャンピオンとなった。年齢ではサンマルチノのほうが6歳年上だったが、じつはプロレスのキャリアでは1958年に16歳でデビューしたモラレスのほうが1年だけ先輩だった。

 モラレスはルーキー時代を東海岸エリアで過ごしたあと、1965年に2度、ロサンゼルスでWWA(ワールド・レスリング・アソシエーション=1968年に消滅)の世界ヘビー級チャンピオンになった。

 20代前半は垂直跳びスタイルのスタンディング・ドロップキック、フライング・ヘッドシザースなど空中殺法の使い手としてならした。

 ジャイント馬場のアメリカ武者修行時代のエピソードの数かずを実録タッチで描いた昭和40年代の劇画『ジャイアント台風』(原作・高森朝雄&辻なおき)には、モラレスが若き日の馬場さんに“32文ロケット砲”を教えた恩人として登場している。

 WWWF――WWEのルーツ――ボス、ビンス・マクマホン・シニアはニューヨーク・ニューヨークの主役のイメージ、つまり“人間発電所”サンマルチノの映像的なイメージを壊さないサムバディとしてモラレスを抜てきした。キャリア12年の若きベテラン、モラレスはサンマルチノとそっくりの体つきをした典型的なベビーフェースだった。

 サンマルチノがイタリア系ニューヨーカーのヒーローであったように、プエルトリコ出身のモラレスはポスト・サンマルチノ世代の新しいエスニック系ヒーローとしてガーデンのリングに登場した。

 200万人とも250万人ともいわれる在米プエルトリコ移民の半分以上はニューヨーク在住。ニューヨークに住むプエルトリカンの姿は、ミュージカル映画『ウエストサイド・ストーリー』で世界的に知られるようになった。モラレスの出現は、そのプロレス版と考えるとわかりやすいかもしれない。

 60年代の終わりから70年代にかけてのアメリカは、ベトナム反戦運動、大学紛争、ウッドストック、アポロ11号と12号の月面着陸、ニクソン大統領の時代。1971年11月には日本への沖縄返還協定が上院で批准された。ガーデンのリングはまだ“4本ロープ”だった。

4本ロープのリング

あまり知られていないことだが、マディソン・スクウェア・ガーデンでは70年代前半までプロボクシングの4本ロープのリングが使用されることがあった。(米専門誌『レスリング・レビュー』=1972年より)

 1971年(昭和46年)の日本はというと、マクドナルドの第1号店が銀座にオープンし、カップヌードルが発売された年。連続女性誘拐殺人犯・大久保清が逮捕され、TVシリーズ『仮面ライダー』がスタートした年だった。サンマルチノからモラレスへの主役交代は、1号ライダー・本郷猛から2号ライダー・一文字隼人へのバトンタッチとよく似ていた。

 ビンス・シニアは、サンマルチノの“方程式”をそのままモラレスに当てはめた。サンマルチノ時代と同じように、それがだれであっても、どんな大物スターであっても、モラレスの対戦相手は自動的にヒールになった。

 60年代にはなかった“応用編”として、WWWF世界王者モラレスのライバルたちにはグラン・ウィザード、ルー・アルバーノといった悪党マネジャーたちが必ずセコンドについた。この悪党マネジャーという“狂言回し”のポジションは、ニューヨーク・ニューヨークのトラディションとして80年代後半までつづいていく。

 ビンス・シニアにとってやや計算外だったのは、プエルトリコ系のファンがひじょうに荒っぽいことだった。モラレスが劣勢に立たされると、リング内にはいっせいにモノが投げ込まれるようになった。観客による暴動騒ぎがひんぱんに起きた――。(つづく)

斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。

この特集の記事一覧

孤独死した60代女性、“お一人様”の最期は認知症でゴミ屋敷に…

孤独死
 玄関の扉を開けると、部屋にはうずたかく廃棄物が積まれたゴミ屋敷の光景が広がっていた。独身で認知症を患っていた60代女性の「孤独死」の現場だ。  核家…

40代「逃げ恥おっさん」が気持ち悪い…ガッキーかわいいを連呼、星野源に嫉妬、正確な記述を競い合う

「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)エンディング 恋ダンス
 現在放送中のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)がいまネットを中心に話題になっている。  物語は、星野源演じる会社員の津崎平匡の家に新垣結衣…

連載

ばくち打ち/森巣博
番外編その3:「負け逃げ」の研究(31)
メンズファッションバイヤーMB
オーダーシャツが4980円でつくれる激安時代、プロも驚く採寸システムとは?
山田ゴメス
女子の間で秘かに流行りつつある「朝セックス」ブームは、男にとっても好都合なワケ
オヤ充のススメ/木村和久
竹原ピストルがオヤジのハートを鷲掴みする理由
フミ斎藤のプロレス講座/斎藤文彦
ブレット対ストーンコールド=序章――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第235回(1996年編)
英語力ゼロの46歳バツイチおじさんが挑む「世界一周 花嫁探しの旅
「今夜、君に恋に落ちてしまいそうだぜ」――46歳のバツイチおじさんはクサすぎるセリフをさらりと口走った
原田まりる
芸の細かさが目立った2016年地味ハロウィン
大川弘一の「俺から目線」
平穏を望む銀座ホステス・美琴――連続投資小説「おかねのかみさま」
プロギャンブラー・のぶき「人生の賭け方」
一流芸能人GACKTのギャンブルセンスをプロギャンブラーが採点
爪切男のタクシー×ハンター
チンコのような温かさで私を強くきつく抱きしめて
フモフモ編集長の今から始める2020年東京五輪“観戦穴場競技”探訪
希望の星は16歳のJK! ジャッジ次第で天国と地獄[五輪最恐の採点競技]とは?
元SKE48/SDN48・手束真知子の「フリーランスアイドル論」
アイドルはいつでも迷っているんです「集客ができない! フォロワーが少ない! 肩書きがない…」
おじさんメモリアル/鈴木涼美
「ね~え、一緒にお風呂入ろう?」リーマンショックで落ちぶれたおじさんの哀号
僕が旅に出る理由 in India/小橋賢児
北インド秘境で「宇宙に住んでいる」と実感した――小橋賢児・僕が旅に出る理由【最終回】

投稿受付中

バカはサイレンで泣く 投稿受付中
佐藤優の人生相談 投稿受付中