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【徹底予想】プロ棋士がCPUに負ける理由 H×H会長vs王戦の再現はイヤだ! 

―[将棋電王戦1]―
1月14日、人間とコンピュータがガチンコで雌雄を決する世紀の一戦『将棋電王戦』が行われる。対局するのは、日本将棋連盟会長・米長邦雄永世棋聖と、将棋対局ソフト「ボンクラーズ」。対局の模様はニコニコ生放送でインターネット中継される予定となっている。 ※詳細は「将棋電王戦の結果がこわい 人間vsCPUどちらが賢い?」にて(https://nikkan-spa.jp/129459) ここでは、どちらが勝つのか大胆予想をしてみたい。 現在のボンクラーズは、将棋倶楽部24での強さを示す「レーティング」という数値が3300点を超えている。プロ棋士が本気で指せば3000点は超えると言われているので、ほぼプロ棋士レベルに到達しているとみてよい。一方の米長邦雄永世棋聖は、かつてはまぎれもなくトップ棋士だったが、今は一線を引いており10年近いブランクがある。さらに将棋の指し盛りは20代後半から30代までと言われるが、御年68歳である。 これは一将棋ファンの立場で割り引いても、正直かなり厳しいのではないかと言わざるを得ない。せめて会長が史上最年長で名人位を獲得した49歳の頃だったら、おそらく勝てるのだろうが……。しかし、それほど強いボンクラーズにも、弱点がないわけではない。ボンクラーズの棋譜(対局データ)を見たプロ棋士たちは、口をそろえて穴があると言うのだ。 まず序盤や中盤で、たまにプロ棋士が見ると明らかに違和感のある手を指してくることがあるという。そもそも将棋の序中盤は指せる手の選択肢がべらぼうに広く、コンピュータでもまったく読み切れないため、ボンクラーズはプロ棋士たちの棋譜や、その局面での駒の数や駒のはたらきなどを元に形勢判断を行う。しかし、人間の感覚的な判断を完全に再現できるわけではない。そしてその判断が、結果的に見事な好手だったこともあるのだが、悪い場合の方が多いというのだ。 また、水面下でのプロ棋士間の研究でハッキリこちらが勝つと結論が出ている局面でミスをすることが多いという。当然プロ同士では結論が出ている局面には進まないので棋譜が残っておらず、データのないボンクラーズが対応できないのだ。 そして、ボンクラーズはある程度先の局面までほぼ完全に読み切れるのだが、突然その先がまったく見えていないような手を指すことがあるという。これは「水平線効果」と言われ、コンピュータ将棋に共通の原理的な課題のひとつが関係している。人間であるプロ棋士は、直観的に危険性を察知して、特定の部分だけを水平線の先まで見ようとする。しかし、ボンクラーズには直観がなく、この部分だけをもっと細かく調べようという判断ができないのだ。 米長邦雄永世棋聖にとって、電王戦の持ち時間が3時間というのは有利にはたらく。持ち時間が長いほど、人為的な計算ミスを減らせるからだ。ボンクラーズの将棋倶楽部24の対局はもっと短時間の将棋というのも参考になるだろう。同じ時間内の計算量はコンピュータの方が圧倒的に多いのだが、直観をうまく使えば、計算する部分を限定して、部分的にコンピュータより多く効果的に読めるのだ。 ボンクラーズには、迷いや恐れといった感情はない。それは、戦いにおいては良い面も悪い面もある。そして米長会長は、将棋にかけては百戦錬磨の直観と感性の持ち主なのだ。人間的なサービス精神や勝負師的な茶目っ気が過ぎて、昨年末に行われたボンクラーズとの早指しの前哨戦で「6二玉」という常識外れの手を試してフルボッコされていた気もするが、それは忘れよう。本番はいつも通りに指すとのことなので、ファンから貴族と呼ばれる人格者、専務理事・谷川浩司九段が冷や汗をかくような展開にはならないはずだ。部下を困らせるのはやめてください、会長! 対局が決まってから、会長は自宅のPCでボンクラーズと練習しているそうだが、一手30秒の早指しなら勝率2割だという。電王戦の本番では、より高スペックなマシンが使われるはずだが、この持ち時間の差がどう影響するのか。そして、対局が決まった当時は将棋倶楽部24のレーティングで約2800点くらいと発言していたその実力が、大好きな酒を絶ってまでの準備で、どこまで現役当時のものに戻っているのか。 ボンクラーズは、優勢になった対局の最終盤は絶対に間違えない。したがって、会長が勝つとすれば、序中盤でのボンクラーズのミスをついて終始優勢のまま勝ちきる、あるいは、さきほどの水平線効果が出て、ボンクラーズが終盤で(プロ棋士的には)思いがけないミスをする、という展開が予想される。とはいえ具体的には、筆者にはほとんど何も想像がつかない。一介のアマチュアから見たら、会長もボンクラーズも、その指し手は全部神のような一手ばかりなのだ。 筆者自身も含め、将棋に詳しいファン的には「ぶっちゃけ負けるんじゃないか」という方が大勢を占めると思うのだが、「できれば勝って夢を見させてほしい」し「絶対に負けるとも思えない」というところ。例としては悪手かもしれないが、『HUNTER×HUNTER』のネテロ会長VSメルエムのような、人間の意地を賭けた、プロ棋士とコンピュータの超絶な能力を見せつける熱戦になることは間違いないだろう。 ●ニコニコ生放送 放送URL http://ch.nicovideo.jp/channel/denousen 取材・文/坂本寛
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