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不正受給より深刻!? 生活保護制度の「無償医療」に群がる医療従事者

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病気であるかないかには関係なく、病院の都合で治療を受けさせられるホームレス。治療費の「不正受給」が終われば、再び路上に放り出される(生活保護は打ち切り)。

「芸人親族の生活保護『不正受給』が話題になりましたが、制度を利用した病院の『不正受給』のほうが、もっと悪質です」  都内の病院に勤務する医師、A氏はこう証言する。 「生活保護を受けている患者さんは、医療費が全部タダになります。生活保護受給額は月14万円程度ですが、医療費はその比ではありません。例えばカテーテル手術をすると、200万円ぐらいの医療費がタダになる。そいう意味では患者さんにとって非常にすばらしいシステムと言えますが、これが治療費を稼ぎたい病院にとっては都合がいいのです」  この制度を悪用したのが、奈良県の山本病院。ホームレスを救急車で連れて行って入院させ、不要な治療を行っていたのだ。 「市役所に『ホームレスが救急車で搬送されました。無保険なのですけれども、放っておいたら死んでしまうようなのですが』と告げる。そうすると、福祉課の人が行って本人の意思にかかわらず生活保護を申請する。そして、病院は『お金はかかりませんから大丈夫です』と言っていろいろな治療を受けさせる。どこも悪くない元気なホームレスに毎日ビタミン剤だけを飲ませて、入院費用を稼いでいたなんてケースもあります」  これは山本病院だけのことではなく、全国で当然のように行われているとA氏は語る。 「例えば、生活保護の患者さんの治療に200万円かかったとすると、必ず満額もらえるのです。国民健康保険や社会保険の場合は審査があり、そういうわけにはいきません。高額な手術をやって透析もした、高い薬もたくさん使ってしまったということになると、『この治療はやりすぎです』とチェックが入って削られてしまう。ところが生活保護はフリーパスで、全く削られません。病院にとって、生活保護の患者さんは上客なのです。一般の患者さんなら人工骨に安いステンレスを使う場合でも、生活保護の患者さんには『(タダですから)チタンを入れましょう』と勧められます。  また、同じ健康保険でも、医療費チェックの厳しさは地域で違います。例えば、東京都や神奈川県は若干厳しいが、千葉県は甘い。千葉県の患者は上客なのです。東京都の患者はある注射が1日2本しか使えないが、千葉県の患者には3本使える。となると『この人は千葉県民だから3本使ってしまえ』という話になる。  本当にこれでいいのかと思います。でも、僕らだって医療保険に食わせてもらっている。だから医者の側から声を大にして『間違っている』とは言いにくい。医療現場から変えるのは不可能だと思います。一番の上客に対して厳しくすることはまずありえない。自分たちの首を締めることになりますから。日本医師会は生活保護者への過剰医療問題を見直すのに反対するでしょう」  これも、貧困者救済の制度につけこんだ一種の“貧困ビジネス”。このことを理由に「生活保護者の無償医療を見直すべき」との議論が出てきている。だが、見直すべきなのは無償医療ではなく医療従事者のモラルではないのだろうか。 <取材・文/横田 一 写真/佐藤 慧>
ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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