ヤンキース黒田に見る【目立たなくても成功する生き方】
ヤンキースの黒田博樹は、投手としてはメジャーでも実にユニークな存在だ。
ア・リーグでトップクラスの成績を挙げているにもかかわらず、なぜかまったく目立たない。7月半ばに行われたメジャーリーグのオールスターゲームにも、普通なら選ばれて当然の成績だったにもかかわらず、まったく声がかからなかった。日本人選手でオールスターに選ばれたのは結局、レンジャーズのダルビッシュ有とマリナーズの岩隈久志の2人だけ。レッドソックスの守護神として活躍する上原浩治は選ばれなかったものの、最後の出場枠1人を決める「ファイナル・ボウト」の候補には入っていた。
黒田は前半戦最後の登板となる7月12日のツインズ戦を終えた時点でア・リーグ2位の防御率2.65をマークしていた。開幕から一時、防御率が3点台に落ちたこともあったが、シーズンここまでほぼ安定的に2点台を維持し、常にリーグ上位に名を連ねてきた。
オールスターに選ばれた投手と黒田を比較してみると、ダルビッシュは奪三振が157でリーグ1位、岩隈はオールスター出場選手が決まった時点では防御率が黒田より下だったが、開幕当初の4月から出場選手が決まる直前までは防御率1位に付けたこともあった。因みにオールスターでア・リーグの先発投手を務めたタイガースのマックス・シャーザーは選出が決まった時点で奪三振ではダルビッシュに次ぐリーグ2位の152、勝利数は同首位の13勝だった。
シャーザーは開幕から13連勝の快進撃を続けたため大きな注目を集め、多くのスポーツメディアで話題になった。ダルビッシュも、メジャー移籍当初から注目されていたこともあるが今季は開幕から奪三振王争いのトップに走っているためメディアを何度も賑わせ「メジャーで最強の投手は誰か」といった特集の中で必ず名前が挙がった。投手の華ともいえる奪三振はファンの心もつかみ、ダルビッシュを目当てに球場に足を運んだりテレビのチャンネルを合わせる人も多い。
岩隈の場合は、同僚のフェリックス・ヘルナンデスと防御率1、2位を独占し続け「球界最強の先発エースコンビ」と話題になった。2009年に最多勝、2010年にサイ・ヤング賞を獲得したメジャーを代表するエースのヘルナンデスと肩を並べる投球を続けているということが、岩隈の評価を上げる大きなポイントになっていたことは間違いなかった。
メジャーのオールスターの場合、投手は選手間投票か監督推薦で選ばれる仕組みになっており、シャーザーは選手間投票1位、ダルビッシュが同4位、岩隈が同5位で選ばれている。メディアで注目を集め話題になった選手は、やはりオールスターに選ばれやすい。
黒田の場合はどうかというと、前半戦で他のトップクラスの投手たちに引けを取らない投球をしていたものの、メディアで脚光を浴びることはほとんどなかった。華やかなイメージを与える奪三振も多くはなく、前半戦を終えた時点でア・リーグ32位タイの84個。勝利数は打線の援護が得られず、7回以上を2失点以下に抑えて勝ち星が得られなかった試合は4度、救援投手陣に勝利投手の権利を消されたことも3度あった。目立つ選手たちには不思議と運の良さがある、いわゆる「持ってる」場合が多いが、そういう点でも黒田は恵まれている選手ではない。
だが見ている人は見ているものである。目立たなくても、人に注目されなくても、わかってもらえる人にだけわかってもらえればいい。投手としての黒田は、まさにそんな生き方をしている。黒田を一番よく見て知っているのは今はもちろんヤンキース球団内部の人たちだが、球団内での黒田への信頼度は今や絶大だ。チームには通算200勝を挙げているCC・サバシアという左腕エースがいるが、今季の黒田はチーム内でサバシア以上に大きな存在となっている。
⇒【後編】へ続く https://nikkan-spa.jp/482591
目立たない黒田が、監督やチームメートから全幅の信頼を寄せられる理由とは?
<取材・文/水次祥子>
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ