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映画『ホテルコパン』で描かれる「みんなが抱える小さな絶望」の正体とは?

 2月13日から公開される映画「ホテルコパン」(主演・市原隼人)は、長野県白馬村の小さな架空のホテルが舞台だ。コパンとはフランス語で「仲間」の意味。そのタイトルから一見、ハートフルな人間模様が描かれているのかと思いきや、実際に登場する人物たちは“狂気じみた”キャラクターばかり。それぞれがなにかしらの「絶望」を抱え、このホテルに集まってくる。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1050462
映画『ホテルコパン』

主演の市原隼人

 この作品で長編映画デビューを飾ったのが門馬直人監督だ。これまではショートフィルムを中心に作品を発表し、「short shorts Film Festival」では幾度も賞を獲得するなど、高い評価を得てきた。そして待望の長編となる本作の構想は、実は’10年末から始まり、5年越しの公開になったという。 「その頃はちょうど震災が起きて『絆』という言葉が流行り、さらにその言葉をちょっと疑問視する意識も生まれてきたころでした。その時にふと思ったのが、震災のような大きな出来事に対しては皆が助けようとしてくれるけど、一方で個人個人が持っている“小さな絶望”って、誰からも見向きもされないよなと。そういう個人が抱える絶望はどうすればいいのかなって。そんな疑問を、作品のテーマにしたんです」
映画『ホテルコパン』

門馬直人監督

 例えば主人公の市原隼人演じるホテルマンの海人は、もともと東京で中学校教師をしていた。しかし教え子がいじめで自殺し、その責任から逃れるようにホテルに流れ着く。アクティブな役のイメージが強い市原隼人には、少し意外なキャラクターだ。 「僕のなかで市原君の姿って『リリイ・シュシュのすべて』で止まっているんですよ。だから『ルーキーズ』や他の役をやっていても、『あの顔が見たいな』という思いがあったんです。彼って、暗いというか、目が深いんですよ。影のある感じがもともとあって、本当はこっちが向いてるんじゃないかという感覚があったんですよね。実際に、思った以上の演技を見せてくれました」  また、ホテルのオーナーである桜木(近藤芳正)にしても、かつて賑わっていたホテルの姿を追い求めて奔走しているうちに家庭が崩壊。その事実から逃げるかのように盲目的にホテル再建を目指して暴走する。客側でも、海人の教え子だった息子の自死を受け入れられない母親や多額の負債を抱える宗教団体の教祖と資産家令嬢、昔は脚光を浴びていた老女優など、色濃いキャラクターが次々に登場してくる。 「それぞれの登場人物はみんな、なにかしらの絶望を抱えているんです。そして劇中で、一度は壊れるタイミングが来る。だから僕から役者さんにお願いしたのは『その瞬間はあなたにとってココですよね?』という認識のすり合せだけですね。『そこだとまだ早いですよね?』とか、その感情のコントロールだけは僕からお願いしました」  そんな登場人物たちが集まってくる舞台が、長野県白馬村だ。’98年の長野オリンピックではジャンプ競技の会場として大きな注目を集めた場所で、劇中ではそのジャンプ台が何度も登場する。ただし、それはかつての栄光の象徴として、だ。
映画『ホテルコパン』

ホテルのオーナー桜木(近藤芳正・右)も心に大きな闇を抱えている

「今は活気が戻っているのですけど、僕らが撮影したときは、町は寂れているし、ペンションが何十軒も並んでいるのに人が全然いなかったんですよ。僕はオリンピックを開催することには賛成なんですが、人がワーっと集まってワーッと去って、その後には誰も見向きもしないという現実が、実際にここにはあるわけです。もちろん、東京だと事情が異なるでしょうが、今は盛り上がっているけどまた繰り返すのかなという感じもあって……みんな何か見失っているよね?という思いは、作品で表したかった」  絶望を抱えた人たちが集まり、互いが関わり合うことで、みんな少しずつ心境を変化させていく。そして、それぞれが迎えるゴールはどんな姿になるのか――。 「観てくれた人は最後のシーンで笑顔と涙が入り混じる姿を目にしますが、それは一個の出来事が解決したからといって、人生そのものがハッピーになるわけじゃないよねってことなんです。だから、いわゆるきれいなハッピーエンドではないんだけれど、『前には行けたかな?』というラストになっていると思いますね」  門馬監督が描く「絶望」と「その先にある物」は、あなたにどんな感情を残すのか。その眼で確かめてほしい。 <取材・文/日刊SPA!取材班> ホテルコパン‘16年2月13日シネマート新宿ほか全国順次公開。配給/クロックワークス ©2015 and pictures inc. 公式HP(hotelcopain.com●門馬直人(もんまなおと) リクルートの広告ディレクターを経て、映画製作会社ドッグシュガーを立ち上げ、以降は映画・TVドラマのプロデューサー・キャスティングプロデューサーとして活動。その後は監督にも転身し、ショートフィルムを数多く制作。初の長編映画作品である『ホテルコパン』に続き、ファンキー加藤主演の『サブイボマスク』(’16年初夏公開)も監督している
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