更新日:2015年10月22日 23:10
エンタメ

近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

 これまでにさまざまな作品の“脇”を飾り、名バイプレーヤーとして知られる俳優、近藤芳正。そんな彼の初主演映画『野良犬はダンスを踊る』が、10月10日から渋谷ユーロスペースで上映される。54歳にして映画初主演を務めた今作は、これまでの彼のイメージとはかけ離れたハードボイルドな殺し屋、「黒沢」という役どころだ。  殺し屋として長らく裏社会で活躍してきた黒沢だが、加齢と共に身の引きどきを感じ、後継を育てて引退を決意するが……その身に思わぬトラブルが巻き起こる。自身でも「この歳にして初ハードボイルド、初濡れ場と、初ものづくしの作品です」と紹介する本作は、モントリオール国際映画祭で「フォーカス・オン・ワールド・シネマ」に選出されるなど、すでに評判を呼んでいる。近藤と窪田将治監督を直撃し、公開開始を控えた2人の胸の内を聞いた。
近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

近藤(右)と窪田監督(左)

――今作のスタートはどういうきっかけで始まったんでしょうか? 監督:もともとのスタートは、近藤さんのマネジャーさんと僕が知りあって、そこで、近藤さんに主演映画がないということを聞いて、ビックリしたんです。あ、そうだったんですかと。それから話が盛り上がって、これもすごいタイミングなんですけど、ちょうど僕のなかで50、60代のベテランの役者さんを主演にして、その周りを若手の俳優で固めるという作品の構想があったんです。もちろん、そのときにはまだ脚本も何もなかったのですが、「もしこの企画ができれば、近藤さん主演でどうですか?」ってお願いしたんです。 近藤:その後にマネジャーから僕に話が来て、「まもなく脚本が来ると思うんで見てください」と言われたんですよ。もちろん、そういう風に動いてくれたことは嬉しかったんですが、ただ本を読んでみて面白くなかったらどうしよう、とは思いましたよね(笑)。簡単なストーリーじゃなくて完璧に出来上がった本が来るということなんで、「コレ、読んだら断れないよな」って。だけど読んでみたらすごく面白くって、「あぁコレ、やりたい、やりたい。ぜひお願いしますと伝えてください」と。 監督:それで、近藤さんは来年に芸能生活40周年なんですが、39年だと区切りが悪いから「今年で40周年ってことにできないですかね?」なんて話をしながら始まっていきましたね。
近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

コミカルな役だけでなくシリアスな芝居でも異彩を放つ近藤

近藤:それはどうにもならないから、「『サンキュー(39)』ってことにしようよ」なんて話してね(笑)。 ――主演がなかったというのも少し驚きでした。もちろん、自分から固辞していたわけじゃないと思いますが……。 近藤:単純にオファーがなかっただけということですよね(笑)。周りからも「初主演おめでとうございます」とも言われましたよ。そんなに「おめでとう」と言われたのはNHK大河ドラマと朝の連ドラと、笑っていいともの「テレフォンショッキング」に出た時以来でしたね。とはいえ、役へのアプローチというのは主役でも脇役でも変わりませんからね。楽屋に挨拶に来てもらえる回数が増えたくらいかな。 監督:ただ、僕的にはむしろプレッシャーもありましたよね。近藤芳正の初主演作にミソをつけるわけにはいきませんから。まぁそれは僕のなかでは心地いい戦いだったりしたんですが。内容も近藤さんが今までやってこなかったことをさせたいし、イメージも今まで皆さんが近藤さんに抱いていたのとは違う、セクシーな面を出したいと思ったので。これまで近藤さんはコミカルな芝居が多かったと思いますが、シリアスな面だったり、新しい引き出しが見せてほしいなって。 ――近藤さんは今作のどの部分に惹かれたんですか? 近藤:まず設定が面白いなと。これまでテレビや映画、舞台でいろんな役をやらせてもらいましたが、人を殺す役でも動機が家の借金のためとかだったり、悪い役だったら企業のナンバー2みたいな、上には逆らえず下には横柄なヤツだったりしたんですよね。だから殺し屋の役というのは完全に初でしたし、しかも、本を読んでみたらなぜかスッと役に入り込めたんですよ。脚本によっては、「あ、このセリフは言いづらいな」と思うときも正直あるんですが、今回は一切なかった。 ――実際に撮影に入った後の印象はどうでしたか? 近藤:それが、特に肩ひじ張らずに自然と演じられたんですよね。主演だから何か気負うこともあるのかなぁと思ったんですが、そんなこともなく。それで、出来上がりを見たときに自分でげんなりすることもあるんですが、そんなこともなく。画面の中に普通にいるなぁという感じでした。 ――とはいえ、演じる内容は初モノづくしということでしたが。 近藤:そうそう。50歳を過ぎて初めてのベッドシーンもやりましたから。本気でやらないといけないよなと思いつつ、「下のほうも本気になっちゃったらどうしよう」とか、今さら不安になりました(笑)。役の上では正解なんだろうけど、人間としてどうなんだって。しかもベッドシーンは1日に2人と2回分の撮影をしたんですよ。そしたら次の日、腰が完全に筋肉痛になっちゃった(笑)。下のほうは本気にならなかったけど、初めての慣れない撮影できっと必死になっていたんでしょうね。 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=954716
近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

黒沢が惹かれるホステス役を演じるのは柳英里紗

――シリアスなシーンもいい意味で違和感がないというか、昔からこういった役柄を演じていたように錯覚しました。それは同年代の役柄ということもあったのでしょうか? 近藤:それもありますね。あと、殺し屋という役に関しては、監督から撮影が始まる前に「食肉加工場で働いている人のように、毎日、職業として命を奪っている人の感じでやって」と言われまして。それをイメージしたんです。 監督:要は「黒沢という人間にとっては、完全にそれが日常なんだ」ということですね。彼はそれを子供のころから日常にしていて、メシを食っているというのが前提にあると。それの例えだったんですよ。 近藤:それでしっくりきた部分はありました。
近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

近藤演じる黒沢は長らく殺し屋を務め、年齢の衰えから引退を考えるというキャラクターだ。『野良犬はダンスを踊る』より

監督:あと、コントにならなければいいなという考えはあったんですよね。これまでの近藤さんのイメージを持っている人からすると、ちょっと笑ってしまうんじゃないかって思ったんですが、ただ、演じてみたらそんなことは全然ありませんでしたね。あ、コレいけるわと。あと、木下ほうかさんとのやり取りがすごくいいんですよ。作品をグッと締めてくれた。 ――車の中でお2人が話すシーンは特に印象深かったです。 近藤:実はあれが初日の撮影シーンだったんですよ。ラストシーンのほうをむしろ最初に撮影したんです。 監督:それは僕の狙いでもあるんですけど、あえてラストシーンを早く撮って、関係性を俳優の皆さんに作ってほしかったんですよね。最初に殺すシーンを撮ったほうが、後から撮るよりもそれまでのやり取りの中で冷徹になれるかなって。 近藤:初日に何を撮るのかって重要だからね。 ――今作はモントリオール国際映画祭にも正式出品されましたが、現地の空気はどうでしたか? 監督:僕は4回目だったんですが、これまでとは全然、リアクションとかが違いましたね。これまではシリアスな映画でも笑いのシーンとかでは笑い声も漏れたりしていたんですが、それもなく、終わった後のリアクションがすごくよかったんですよ。だからすんなり胸に届いたのかなって。 近藤:監督とも話しているんですが、この黒沢という役でシリーズにできないかって話はしているんですよ。 監督:三部作くらいにしたいですよね。まずは第二弾で「黒沢VS女殺し屋」っていうのをやりたいなと(笑)。お互い殺し屋とは知らずに恋愛関係になったり……。 ――どこかで聞いたようなストーリーですが(笑)、近藤さん的にはその構想は? 近藤:いやぁ、おもしろそうですよね。あとは濡れ場をどんどん増やしていくとか(笑)。 監督:ハハハ。濡れ場男優ですね。
近藤芳正、54歳にして初主演&新境地。「初のベッドシーンでは腰痛になりました」

「昔よりも芝居の楽しみが増えているんですよ」(近藤)

近藤:なかなかいないですからね、50歳を過ぎて濡れ場デビューをするとか。これからどんどん増やしてむしろ特化していくとかね(笑)。共演し女優さんから「女性の扱いが上手いですね」と褒められましたから。まさかの開眼です。 監督:20代のコに50歳を超えて褒められるという(笑)。まぁ冗談はさておき、近藤さんがシリアスな役をやってくれると、シリアスになりすぎないというか、いいあんばいになるんです。道歩いてても「あ、コイツ危ないヤツだな」と分かるような人だとダメだったんですよ。やっぱりこの作品は近藤さんじゃなきゃダメだったんですよね。 近藤:この映画やモントリオールに行ったこともそうだし、最近、この歳になっていろんな発見だらけなんですよ。いろんな刺激を受けて自分のやりたい方向がこの1、2年でハッキリ見えた感覚がある。20代、30代の頃って、自分から「出よう、出よう」と変なアプローチをしちゃうこともあったんです。僕の持論ですけど、テレビドラマではそれをしたほうがいいと思っているんですよ。脚本にないことを、少し目立つってことをしたほうがよくって、それを如何にするかということを20代、30代の頃はしていたんですが、けどそれにも少し限界を感じるようになって……今度は逆に、なるべく力を抜いて演じることを意識するようになったんです。それを10年意識してきて、ようやく今できてきたなって思いますね。 <取材・文/日刊SPA!取材班 撮影/渡辺秀之>
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