パイパーが求めた映画というリング――フミ斎藤のプロレス講座別冊 WWEヒストリー第66回
“引退”という日本語と“リタイアretire”という英語にはかなり大きなニュアンスのちがいがある。動詞のリタイアには“引退する”のほかに“退場する”“(試合やゲームなどを)棄権する”“退席する”といった意味があり、広義では“就寝する”“消灯する”、軍隊などが“撤収後退する”といった軍事用語にも使われる。
パイパーは、ホーガン対アンドレ・ザ・ジャイアントの“世紀の一戦”がおこなわれた“レッスルマニア3”をみずからのリタイアメント・マッチの舞台に設定した。対戦相手のアドリアン・アドニスはパイパーの若手時代のタッグパートナーだったが、実況・解説のゴリラ・モンスーン&ジェシー・ベンチュラはなぜかそういったエピソードにはふれなかった。
“引退試合”は、どちらかといえばパイパーとビンス・マクマホンのケンカ別れの妥協案だった。パイパーはプロレスとタレント活動の両立を希望したが、ビンスはWWEがマネジメントしないところのタレント業務にNGを出した。パイパーは“ロディ・パイパー”というリングネームとその知的所有権・版権・肖像権は自分のものであることを主張し、ビンスは“ロディ・パイパー”はあくまでもWWEの登録商標であると考えた。
パイパー側の弁護士とWWEは、時間とお金がかかって結果的にはどちらにとっても利益にならない法廷闘争を回避し、専属契約の解除という形で事態の収拾を試みた。パイパーとビンスは「ライバル団体のリングには上がらない」という“内約”を取り交わした。
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