更新日:2022年08月07日 19:01
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筑紫哲也の『News 23』が面白かった理由【鴻上尚史】

『News 23』が面白かった理由

 筑紫さんは評論家ではありませんでした。なんというか、(お金はもらっていませんが)パトロンというか、大人(たいじん、と読むほうです)の風格でした。 「多事争論 メディアと権力」筑紫哲也 本当に演劇を見るのが好きなんだな、文化が好きなジャーナリストなんだなと感じました。  『僕たちの好きだった革命』という芝居の時は、平日に見に来て、(通常、僕の芝居は2時間なのですが、この時だけは、二幕もので3時間を越していて)最後まで見ていては、『News23』の打ち合わせに間に合わないと一幕だけで帰り、土曜日の昼に、二幕だけを見にいらしたこともありました。  演劇だけではなく、筑紫さんの興味は映画も音楽も古典も文学も網羅し、じつに多彩でした。  僕が筑紫さんを尊敬したのは、『朝日ジャーナル』の編集長時代に、統一協会の霊感商法を批判するキャンペーンを張り、抗議が殺到し、自宅に帰れず、ホテル住まいで闘いを続けた、ということを知った時です。  そういう人が、映画だの演劇だの音楽を、じつにニコニコしながら愛でている姿に、「文化と教養のある大人」を感じたのです。  あの当時、『News23』の第二部は、筑紫さんの興味を反映して、じつに面白かったのです。  さまざまな流行や現象を大人の目線で紹介していました。  今、そういう番組は残念ながらありません。手近な笑いを入れながら流行を紹介する番組はあっても、地上波で、早く深く新しい動きを紹介するテレビはなくなりました。  いじめを特集した時は、命の電話のような「いじめの被害」を受けている子供達が残した声を延々と流したと、金平さんが話されました。  その時の映像は、金魚鉢が傾き、水が徐々になくなり、金魚達が苦しみもがくものでした。その風景に「死にたい!」という子供達の声が続いたのです。今、そんな番組は間違いなくオンエアできないでしょう。
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