更新日:2022年08月08日 03:26
エンタメ

“みんな恋愛をしていない”現代の「恋愛小説の形」とは? 川村元気が2年ぶりの新作を語る

30代既婚男性に一番“刺さる”小説

――本作は今年4月から週刊文春で連載されていましたが、数々のスクープ記事と一緒に載ったわけですよね。  そうなんです。でもスクープも色恋の話が多いわけじゃないですか。だから「やっぱり人は恋愛から逃げられないんだな」なんて思いながら書いていましたね。みんなどんなに理知的になっても、やっぱり恋愛からは逃れられない。そこが面白さなんだと思います。  だから最初は「恋愛はなくなったんじゃないか?」って仮説で始めたけど、書き終えると「やっぱりなくなってない」という結論に達しました。みんな自制するのが上手になっているだけ。僕がこの小説でやりたかったことって、みんな建前で誤魔化している本音を、墓荒らしのように掘り返してゾッとさせたかったんですよね。「みんな建前は取り繕っているけど、なんにも解決してないのではないか?」って。 ――恐らく、既婚者男性のほうがリアルに感じとる気がします……。  ええ。今のところ、ご結婚されているインタビュアーの方が一番面喰っていました(笑)。ある週刊誌の記者さんは読み終わってから奥さんに「俺、大丈夫かな?」ってLINEで尋ねたと言っていました(笑)。今回は、男性の同世代の反応が一番いいんですよね。30代、40代の男性に一番刺さる小説のようです(笑)。やっぱり僕が持っている違和感とか疑問を全部入れたつもりだからですかね。それを同世代の男性に「そうだよね」って言ってもらえなかったら、小説書いている意味ないとも言えます。 ――そういえば、ほかのインタビューで本作のことを「最初にタイトルを決めて、そこから内容を詰めている」と話していましたが。  そうですね。というのも、ずっとサイモン&ガーファンクルの「四月になれば彼女は」という曲が気になっていたんです。なんでかというと、このラブソングの歌詞は4月から始まった恋が9月で終わる内容で、半年分がないんですよ。そこがズルいなと思ったんです。恋愛が半年かけて成就したとして、そこから男女がどう生きていくかが大変なわけで、僕は残りの半年を恋人たちがどう過ごすのかを知りたかった。それなのにサイモン&ガーファンクルはそこを描いていないと思ったんですよ。だから残りの半年、愛が失われていく中で2人はどうやって生きていくんだという物語を書こうと。  でも辛かったですよ、後半ブロックを書くのは。「どうやって帳尻を合わせるんだ?」と、自分でもわからないまま書いていたんで。
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最初からプロットは決めない?
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四月になれば彼女は

『世界から猫が消えたなら』『億男』の著者、2年ぶりの最新刊


世界から猫が消えたなら

2013年本屋大賞ノミネートの感動作

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