マジシャンの口から出てくる国旗みたいに関係ない言葉がいろいろくっついてくる
R-指定:練習のつもりでやってなかったのに、一番練習になったのは、やっぱりサイファー(誰でも参加OKな路上セッション)です。何人かとフリースタイルをしていると、自分の頭のボキャブラリーにはない言葉が、次々と飛んでくるから。それに対して、パっと瞬時に言葉を返さなきゃいけない。
晋平太:その訓練はフリースタイルを上達するうえで役に立つよね。
R-指定:「いま盛り上がっているこの話を俺も引っ張って、どうにか面白くしたろ」みたいなことを考えるんで。やっぱ何人かとやるっていうのは、めちゃめちゃ大事かも。
晋平太:イレギュラーなバウンドで飛んでくる言葉に反応する練習は、ひとりじゃできないことだからね。MCバトルも当然相手がいるわけだし、練習も人とできることは人とやったほうがいいんだよ。
R-指定:あと、「よし、この話題やったら、これ言ったろ」って思ってたことを、他の人に先に言われちゃうこともある。そういうときは、二の線、三の線を自分の頭の中で考えなければいけないから、そこで脳みその速さが鍛えられるというか。
晋平太:頭の中がギュンギュン回る感じになるんだよね。
R-指定:ひな壇に座っている芸人さんも、たぶん同じような脳みその動きをしていると思うんですよ。「このコメント言われたら、これ言お」みたいな。
――じゃあ常に頭の中に、次に言う言葉の候補みたいなものがどんどん出てくる感じなんですね。
R-指定:候補じゃなかったものも出てきますね。口から言葉を出したときに、その言葉に反応して、マジシャンの口から国旗がいっぱい出てくるやつみたいに、全然関係ない言葉がいろいろとくっついてくる感じというか(笑)。その関係ない言葉から、また数珠つなぎみたいに、変な方向に脱線していくこともあります。目的のないフリースタイルは、そういう脱線が面白いんですよ。バトルやと、言うことが「俺のほうが上回ってるんや」って内容に絞られるんですけどね。
晋平太:だからバトルで勝てるようになりたいなら、楽しんでサイファーをする以外の練習も必要になるかな。「面白いことを言って笑わせよう」と思ってラップするのと、「相手より自分が上だと示そう」と思ってラップするのじゃ、内容も全然変わってくるから。
R-指定:逆に、フリースタイルの目的が「バトルで勝ちたい」ってだけの人もいますよね。地方にライブに行って、オープンマイクにしたときに、若い子に急にディスられたりすること、ありますから(笑)。
晋平太:本当はその人も、R-指定くんに憧れまくってるはずなんですけどね。だから、ラップで表現できることが、「俺のほうが上だ」ということと、「相手へのディス」だけというのは、ちょっと寂しいよな。
R-指定:ラップをはじめたばかりの頃は、みんな牙をむきたくなりますしね。でも、それ以外の表現もできるようになったら、ラップはもっと面白くなると思います。
<構成/古澤誠一郎 撮影/林 和也>
●R-指定(あーる・してい)
大阪府堺市出身のラッパー。UMBの全国大会で2012年~2014年に3連覇を達成。HIP HOPユニット「Creepy Nuts(R-指定 & DJ松永)」のNew Mini Album 『
助演男優賞』は 2017年2月1日リリース。全国ツアー(
http://creepynuts.com/?p=1468)も行う。
●晋平太(しんぺいた)
東京都出身のラッパー。2010年と2011年にはUMBの全国大会で2連覇を成し遂げた。初の著書『
フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩』(イースト・プレス)も発表。 オフィシャルサイト
http://shinpeita.jp