薬や医療器具も買わせてもらえない自衛隊病院の悲劇
某所の自衛隊病院で健康診断の採血で、指揮官クラスの自衛官Dさんは看護師の3曹(かなり新人)が「血管がでない」とつぶやくのを聞きました。腕をぎゅうぎゅうに縛られてバンバンとたたかれた直後、最初の針がぶすっと無慈悲に突き刺さりました。「ギャッ」と心の奥で叫ぶほど痛く、この看護師の技量の低さを確信しました。刺すだけ刺して抜いたあと、「採血できませんでした。もう一度します」との言葉。
「え? それはどういうこと?」と脳内で聞き返しましたが、すぐに2撃目が予告もなくぶすっと刺さりました。これは涙がでるほど痛かったのですが、歯を食いしばって耐えたあと針がおれてしまいました。採血の注射針が折れたのをみたのはその時が初めてだったようです。
さらにもう一回刺して計3回の攻撃を受けてもやはり採血できず、時間がかかりすぎるのに気づいた検査係長がやって来て、「すんませんね~」とカルテを確認、そのときに司令官クラスの階級と職名を見て、顔が青ざめ、大慌てで医師が採血をすることになり、やっと健康診断完了となりました。平静を装って自衛官Dさんはその場を去りました。
腫れあがった腕をさすりながら何でもないことのようにふるまっていましたが、ほ~~んとに痛かったそうです。その後、退役後に一般医療機で健康診断を受けた時に、「一般病院の看護婦の注射は魔法だ! 神業だ! すごい! すごい!」と本気で絶賛する自衛官Dさんには自衛隊病院で受けた数多くの逸話がまだあるようでした。
さらに、もう一つの問題点です。自衛隊病院には会計検査院の監査が定期的にきます。会計検査院は無駄な予算を削減するために存在します。「病気はいつ起こるかわからないので医薬品や医療器具がないと診療も治療もできないので在庫を認めてください」と訴えても、「国の予算ですから、無駄はゆるされません。今使う予定がないものの購入は認められません」と指導をうけます。結果、多くの分野で、とくに年度替わりのシーズンになると薬と医薬品が不足し、患者を受け入れることができなくなります。
こんな状況ですから、「駆けつけ警護が実施され、自衛隊病院の医師や看護婦が『銃創』の患者を診ることになったらどうなるのか?」と想像するだけで恐ろしいのです。<文/小笠原理恵>おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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