アメリカ人はなぜフェイクニュースとファクトを見極められないのか?【町山智浩インタビュー】
「バノンが会長を務めていたインターネット・メディア『ブライトバート・ニュース』は大統領選の結果に大きな影響を及ぼしたフェイク・ニュースの発信元であり、彼自身が『オルト・ライト(オルタナ右翼)のハブになればいい』と言っているように、トランプのコアな支持者が信頼するメディアと言っていいでしょう。ブライトバートの最大の“功績”は、大統領選終盤に投じた『ヒラリーがパーキンソン病』というスクープです。完全なフェイク・ニュースでしたが、当時はこれをきっかけに彼女の重病説が駆け巡り、ヒラリー陣営には大きな痛手となりました。
また、彼らは選挙期間中に『ワシントンのピザ店が小児性愛の巣窟になっており、その“黒幕”はヒラリーだ!』というフェイク・ニュースを垂れ流し、これを真に受けた市民が銃を持って店に押し入るといった騒動まで引き起こしている……。だが、現在の米国は既存の大手メディアは信用せず、ブライトバートやトランプの発言にしか聞く耳を持たない層が半分以上おり非常に危険な状態。ナチス支配下のドイツのようなもので、バノンはプロパガンダで世論操作したゲッペルス宣伝相の役割を担っていると言っていい」
ブライトバート・ニュースは白人至上主義を謳い、人種差別や反ユダヤ主義を煽るネット発の極右メディアとして知られるが、その手法はかなり荒っぽいようだ。町山氏が話す。
「ブライトバートは共和党の候補者選びのときに、名門出身のエリートだったジェフ・ブッシュ候補を徹底的に叩いたり、保守系雑誌のユダヤ系編集者にホロコーストの写真を送りつけたりしていたが、その後、フェイク・ニュースづくりの専門家だったジェームス・オキーフェまで雇って、隠し撮りした動画を配信するようになります。
例えば、リベラル系のボランティア団体に『私たちはイスラム系の団体で寄付をしにきました』と入り込み、寄付を受け取る場面を隠し撮りした動画を編集して、『この団体はイスラム過激派からカネをもらっている!』というニュースに仕立て上げてしまうのです。また、避妊や中絶の指導をするボランティア団体もターゲットにされました。中絶した胎児は医薬品研究のために無償提供されるが、この団体に『死亡した胎児を売ってカネ儲けをしているのか?』と隠しカメラを携えて聞きに行き、『中絶した胎児の肉を売っている』という体裁のニュースにして配信する……。
さながら、マイケル・ムーアの“劣化版”のような演出ですが、ブライトバートはテキストのフェイク・ニュースを掲載する一方で、こうしたドッキリ演出でインチキな隠し撮り動画も大量に流しているのです。つまり、敵にダメージを与えられるなら手段を選ばない確信犯的なデマゴーグがブライトバートであり、そんなフェイク・ニュースを垂れ流し続けるメディアのトップが、今やホワイトハウス入りして、新聞やテレビ局を相手に『既存メディアはフェイク・ニュースだ!』などと攻撃している……バカげた話ですよ」
トランプ政権とメディアの戦いはまだ始まったばかりだが、フェイク・ニュースに翻弄され続ける米国民の分断はそう簡単には収まらないだろう。 <取材・文/山崎元>
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