更新日:2022年08月25日 09:06
スポーツ

トリプルH“ザ・ゲーム”と呼ばれた男――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第320回(2000年編)

 WWEはプロレスをスポーツ・エンターテインメントと呼称していて、連続ドラマのストーリーラインばかりが注目されがちではあるけれど、じつはリング上のプロレスそのものはいたってオーソドックスなテイストになっている。  TVショーではいくつかのストーリーがつねに同時進行してはいるが、ドラマのいちばん大切なところはきっちりとチャンピオンベルトをめぐる闘いである。チャンピオンとチャンピオンではないほかのたくさんのレスラーたちの関係、登場人物たちのヒエラルキー、ピラミッド型の構造がひじょうにはっきりしている。  もちろん、マイクを持ってのおしゃべり、バックスステージでのスキット・シーンも得意分野ではあるけれど、“ザ・ゲーム”が“ザ・ゲーム”としての才能をいちばん発揮するのは、たっぷりと時間をかけて闘うタイトルマッチらしいタイトルマッチ。トリプルHは、負けそうで負けない悪党チャンピオンの王道を歩んできた。  ブルーノ・サンマルチノやボブ・バックランド、ハルク・ホーガンら歴代のWWEのチャンピオンに共通している単純明快なベビーフェースのイメージと比較すると、トリプルHが探求したチャンピオン像はかつてのハーリー・レイス、ニック・ボックウィンクル、リック・フレアーらのそれに近かった。  WWE世界ヘビー級王者として、どんなに攻められても、フォール負けを食らいそうになっても、最後の最後の場面ではチャンピオンベルトだけは失わない闘い方――伝統的なヒールの型――を徹底して身につけた。  ストーンコールドとロックは観客の絶対的な支持を集めるベビーフェースで、トリプルHはつねにこのふたりの反対側のコーナーに立っているシチュエーションを選択した。そもそもヒールが憎たらしくなかったら、ベビーフェースはベビーフェースにならない。  ビンスはトリプルHに主役の座を与え、じつの娘ステファニーをその相手役にキャスティングした。そして、トリプルHとステファニーはやがてほんとうの夫婦になった(2003年10月に結婚)。  プロレスラーとしてのリアリティーがドラマを追い抜き、“ザ・ゲーム”はファンタジーと現実の境界線を超えたのだった。
斎藤文彦

斎藤文彦

※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ ※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス講座」と書いたうえで、お送りください。
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