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猪瀬直樹氏の“恋人”蜷川有紀氏。女優から画家へのシフトは自然な流れだった

 その後、女優としてのキャリアを着実に積み重ねていた有紀氏だが、一方では芸術への想いを一層募らせていた。 「女優をやりながらも、ずっとアートをやりたいという気持ちが強くあり、2000年に画家の道を進むことを決心しました。ただ、女優の仕事がかなり先まで入っていて、2005年にようやく女優を休業することにして、女優デビュー30周年の2008年に休業を発表しました。振り返れば、女優から画家へのシフトは自然な流れでしたね。まぁ、満を持して、というよりは、やっとアートに専心できる! という感じでした(笑)」  2005年に女優業を休業し、2008年に初の絵画展『薔薇めくとき』を開催。情報文化学会・芸術大賞受賞し、画家としても華々しいデビューを飾った。以降、『薔薇まんだら』、『薔薇都市』、『薔薇迷宮』など薔薇をモチーフに大規模な個展を開いている。彼女が“薔薇の画家”と呼ばれる所以だ。 「薔薇の花を見ていると、花びらが渦巻いて螺旋を描き、そこに迷宮を感じる。螺旋のなかに吸い込まれていきたい……そんな衝動から、薔薇をテーマにしています。それに、私の作品では、日本画家が使う岩絵具を用いているのですが、『紅唇砂(べにしんしゃ)』の赤色が私の心に響く。神秘的で、パワーを秘めたこの赤色との出会いもあって、薔薇をテーマにしています」  現在、開催中の『薔薇の神曲』でも、岩絵具の赤と青がビビッドな色彩を放つ作品が並び、さまざまな表情の薔薇が描かれる。ただ、この時代に「ダンテ」をテーマに選んだのはなぜなのか。 「新しい時代の到来を予感し、どう未来を築いていくべきか考えていたとき、ダンテを読んでみようと思ったんです。そもそもダンテは700年前、ルネサンスの先駆けとなった作品。ちょうど今、私たちもAIなど先進技術が発展し、新しい時代の幕開けを前にしている。同時に、人種や宗教、国境といった旧来的な価値観とは異なる方法で、私たちは繋がっていけないのか……そんな考えもあり、ダンテはこれからまだまだ格闘できるテーマだと思っています」  個展初日のレセプションパーティーには、交際中の猪瀬直樹氏も駆けつけ、仲睦まじいツーショットを披露したが、有紀氏がダンテを描くに至ったキーマンこそが猪瀬氏だった。 「猪瀬さんと最初お目にかかったのは、ダンテのことを聞きたかったからなんです。すると、『ダンテは一神教です。一神教とは、生活にタブーがある。有紀さんは生活にタブーがありますか?』と言われました。当時、私はダンテをテーマにするにあたって、いろいろな人に意見を求めていたんですが、こんなことを言う人はいませんでした。芸術論や時代論ではなく、まったく異なるアングルからの意見に驚きましたね。実は、まだ猪瀬さんとお会いする前、どう新しい時代を切り拓いていくのかを考えていて、『ミカドの肖像』をよく読みました。日本や日本人を考えるとき、彼の著作はとても重要ですよね。だから、お目にかかりたいとその頃から思っていました」  猪瀬氏は代表作『ミカドの肖像』で、「なぜ旧皇族の土地にプリンスホテルが建つのか?」という問いを出発点に、従来とはまったく異なる天皇論を描き切る離れ業をやってのけている。作家としての感性は、若い頃にもまして研ぎ澄まされているようだ。  そんな猪瀬氏は、歯に衣着せぬ言動で、ときに物議を醸す……。先日も、自身のノートPCのキャプチャ画面をネットに公開したところ、ブラウザにアダルトサイトがブックマークされていたのがわかり、ちょっとした騒ぎになった。 「炎上してなかった? って聞いたら、『うん』って。お騒がせというか、ドジですよね(苦笑)。立派な作家なのに、そういうお茶目なところがある人なんですよ(笑)」  成熟した大人のカップルにとっては、炎上など些末なことなのだろう。むしろ、「私の作品にも、明らかにいい影響が出ている」と言わしめるほど、猪瀬氏は公私にわたるパートナーのようだ。蜷川有紀氏の個展『薔薇の神曲』は、6月18日まで好評開催中だ。<取材・文/山崎元> 【蜷川有紀】 画家・女優。1978年、つかこうへい版『サロメ』にて、3000人の応募者の中から選ばれ女優デビュー。1981年、映画『狂った果実』でヨコハマ映画祭新人賞受賞。以降出演作多数。2004年には、短編映画「バラメラバ」を監督・脚本・主演。2008年、Bunkamura Galleryにて絵画展『薔薇めくとき』を開催。同年度情報文化学会・芸術大賞受賞。以降、大規模な個展を精力的に開催し、岩絵具で描き上げた魅惑的な作品は女性の圧倒的な支持を得ている。大正大学客員教授。(財)全国税理士共栄会文化財団/芸術活動分野選考委員、青森県立美術館アドバイザー等として多くの文化活動にも貢献
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蜷川有紀展『薔薇の神曲』
ダンテの『神曲 地獄篇』をテーマに、高さ3m×幅6mの大作『薔薇のインフェルノ』、ダンテの永遠の女性『薔薇のベアトリ―チェ』、地獄での罪を償う『浄罪山』など、赤と青で構成された蜷川の新作を展示。パークホテル東京のアートラウンジが『神曲』の世界観で埋め尽くされる!

2017年5月29日(月)~6月18日(日)
於・パークホテル東京25階アートラウンジ
◎蜷川有紀在廊日
会期中、毎週火、水、金、土、14:00~17:00、および最終日。
ギャラリーツアー毎週水、土 14:00~14:30
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