代理人、通訳ナシ。移籍交渉はSNSで
アジアと一口に言っても、そのエリアは広大。通訳や代理人もつけずに1人でどのようにチームを探し、交渉してきたのだろうか。
「チームの探し方は年々変わってきました。ここ数年はメールに加えFacebookなどのSNSが普及したこともあり、チームにダイレクトにメッセージを入れて練習参加の約束を取りつけたり、だいぶ楽になりました。海外に出たばかりのころはインターネットも大して普及してなかったですし、FAXを送ったところで音沙汰なしなんてざら(笑)。だから、現金10万円だけをポケットに入れて現地に行って、ストリートサッカーからはじめ道場破り的にチームとの契約までこぎつけることが多かったです。
なんで10万円だけしか持っていかなかったというと、それでチームが決まらなかったら辞めるという覚悟を持ちたかったからです。人は余裕があると甘えが出てしまいますが、お金は毎日少しずつ減っていきますし、そうすると追い込まれて少しでも時間を無駄にしないように頑張るものじゃないですか」
正式な手順を踏むより、現地に乗り込みアピールするのが、一番というのはいかにもアジアらしい。
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香港では地元新聞に紹介された
「練習(トライアル)にさえ参加できればアピールする自信はありましたし、チームとの契約も最後は人対人なので、そこでしっかり熱意を伝えられればうまくいくものです。もちろん、30代半ばを過ぎてからは経歴書を送ってもまず年齢ではじかれてしまうことが多かったので、自分の足で現地に行って練習でまだ動けるところを示す必要があったというのも事実です。
ただ、これだけ多くのチームを渡り歩いてきたことで、10か国を過ぎたあたりくらいからは、チームの担当者も僕の存在を知ってくれている場合が多く『オマエはギネス記録を狙っているのか?』なんて言ってくれてすんなり決まった場合もありましたね(笑)」
契約交渉は一人。「テレビが来るまでプレーしない!」と強気に
チームとの契約時に何か気をつけていることなどはあったのだろうか。通訳も代理人もいないわけだから、当然給料の交渉などを含め、すべて1人で行うわけである。
「僕はプロサッカー選手としてプレーする以上、オフを含めて1シーズンはそのサラリーで生活できることを条件と考えてきました。ただ、相場より明らかに高い金額を言っても相手にしてもらえないですし、いくらでもいいと言ってしまえば足元を見られるだけ。だから事前のリサーチは結構してました。
それと最初に行ったシンガポールでは、午前中に金額を提示され、住む家も内見し、あとは午後に契約書にサインするだけという状態だったのに、電話1本で契約がなくなったこともありました。だから、交渉の過程はあとで『言った言わない』になるので、必ずICレコーダーで録音などするようにしていましたし、日本と違って口約束が通じないので契約時には必ず書面にしてもらうようにしていました。
もちろん最後は、たとえば移動の車が用意してもらえなかったからバイクだけは何とかしてほしいとか、サラリーが希望の額に届かなかったらその分、日本への航空券を2往復分は用意して欲しいとか、細かい交渉もします。あるときは、家にテレビがあると言っていたのに行ったらなかったことがありました。その時は、『約束と違う。テレビが来るまでプレーしない』と言ったらすぐにテレビが来ました。まあ、そんな交渉術も毎日のように現地のナイトマーケットなどで値札のない物を買い物しているうちに自然と身に付いてきましたね(笑)」
家の前で座り込みも? 給料未払いを回避する方法
シンガポールリーグにて
いま話題の中国リーグですら、数年前は大物外国人選手への給料未払い問題などが話題となっただけにお金の問題は気になる。契約はしたが、お金が支払われないなんて話も聞くが、そんなことはなかったのだろうか。
「遅延は何度かありましたが、最終的にはすべて払ってもらいました。マレーシアでは、一時3か月くらいの遅延がありましたが、チームメート全員で練習をボイコットして何とか払ってもらいました。モルディブでも遅延があって、その時はマネジャーが何度電話しても出なかったので、最後は家の前に居座って払ってくれるまで帰らないと言って払ってもらったり。完全な粘り勝ちです。
それとこれは東南アジアでの“あるある”かもしれませんが、退団する際に帰国することを話してしまうと、最後の給料を払わず済ませようとするズル賢いマネジャーも多いので、帰国日などはあえて言わないようにしていました。こんな経験をしていると、もし金融会社にでも務めたら、いい取り立てになれるかもしれませんね(笑)」
モンゴルリーグでは優勝も経験
そのほかにも、お金にまつわるトラブルはありそうだが。
「たとえばインドではルピーで給料を貰っていたのですが、最後はドルに換金しなければならず、手数料がバカにならなかったり。それとベトナムではインフレもあって毎月札束をキャッシュでもらっていたのですが、管理に困って夜は枕元に札束を置いて寝ていました。それに出国のときが大変で札束をスーツケースに入れて両替所に行ったら、偽札が混じっていて一部換金してもらえなかったんです。それでも、大した問題とは捉えてないんですから、どんだけ適当なんだって感じでしたけどね!」