更新日:2022年08月30日 23:45
スポーツ

20か国を漂流した41歳プロサッカー選手・伊藤壇のクレイジー蹴球ジャーニー

ポルシェ、BMW、レンジローバーを乗り回し

 アジアには独特の文化や風習、気候などを持つ国も多い。言葉も違えば、文化や風土も様々。これまでプレーしてきたなかで印象に残っている国などはあるだろうか。

ブルネイではポルシェに乗るも、車高が低すぎて断念!

「待遇面でいえば、よかったのはブルネイ。サラリーはJリーグにいた頃よりもよかったですし、チームのオーナーが王族で、車関係の会社を経営してこともあり、車はポルシェから、BMW、オペル、サーブ、レンジローバーなど希望するものを乗り放題。住まいは4ベッドルームで、給料は週払い。食事にガソリン代まで無料とお金を使うことがなかった。

ネパールで地元の子どもたちと

 逆にキツかったのが、ネパール。人は親切で山もキレイだったのですが、とにかく寒いのに1日13時間も計画停電になったり。とくに夜は冷えて、ホテルで寝る際もダウンにニット帽を被って、マスクにネックウォーマー、手袋に靴下を履いてました。シャワーのお湯なんて当然出ませんし、やかんで水を温めてそれをバケツに入れてかぶったり。それに試合だと言われて連れていかれたところが雑草が茂っている原っぱで、ゴールの枠だけが置かれていたものの、ゴール前で牛が寝ていたこともありました(笑)」  海外生活で、ましてやプロサッカー選手ともなれば、何より食べることが大事になるが、地域によってはちょっと変わった食べ物に悩まされたこともあったのでは? 「インドやネパールなど南アジアでは、とにかく毎食カレーなのがキツかったですね。試合前にカレーって信じられます? それで胃がもたれるからパスタにしてくれと言ったら、パスタもカレー味だったり(苦笑)。

ブータンの民族衣装「Gho」を身に着けて

 あと、フィリピンでは“バロット”と呼ばれる孵化直前のアヒルのタマゴを茹でたものがあるんですが、もう口ばしの形が見えるんですよ。現地ではご馳走なのですが、それはさすがにダメでした。口に入れた瞬間、口ばしが歯に引っ掛かったのが気持ち悪くて、すぐに吐き出してしまいました。それからベトナムで食べた食用のネズミ。ただ、海外に馴染む上では、とにかく喰わず嫌いはよくないと思い、何でも1度は口に入れるようにはしていましたね(笑)」

爆破テロ、拳銃強盗未遂、美人局……危険に晒されたことも

 単身で異国に乗り込み、17年も海外で暮らしていれば危ない目に遭ったことも1度や2度ではないだろう。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1344086

ブータン時代。タクツァン僧院を観光

「インドネシアのバリ島にトライアルに行った際には、飲みに行ったクラブが翌日に爆破テロに遭ったことがありました。マカオでは不法滞在者と勘違いされパトカーに乗せられ、ベトナムのホーチミンでは夜道で拳銃強盗未遂に。タイでは繁華街からの帰り路にニューハーフに誘惑されたことも。東南アジアでは、気をつけないと対戦相手のチームが試合前日の宿泊先に美人局を送り込んでくるときもあるんです!(笑)」  かつてJリーグで行き場を失い、アジアに活躍の場を求めたときは、10人いれば8人が「何しにいくんだ」と冷たい目を向けてきたという。しかし、自身が信じた道を突き進んだ先に光明が差した。 「当時はアジアに行くって言ったら鼻で笑われましたね。でも、サッカーは世界中でやっています。Jリーグを経て、欧州リーグに移籍し、日本代表でプレーするのが王道なのかもしれないですが、それがすべてじゃない。一度夢が破れたとしても、違う道を使ってまたそこの道に辿り着けることもある。僕も最初は日本代表になるのが夢でしたが、それが叶わずともいろんな国でプレーすることによって“日本を代表する選手”にはなれたと思っています」

ミャンマーの民族衣装のロンジーを穿いて

 ’17年限りでの引退を表明したのは、モチベーションがなくなったからではない。ほかに、やりたいことがみつかったからだという。 「将来はどこかアジアの国で監督をやってみたい。それには選手を諦めなければならない。体は1個しかないですから。監督として『1年1カ国』は無理。でも、これまでプレーしてきた国に指導者として戻れたら、うれしいですよね。ただ、ことしが現役ラストイヤーですが、まだ半年あります。チャンスがあれば、もう1か国チャレンジできればと思っています」

“旅の終わり”は「中央アジアの北朝鮮」トルクメニスタンで!?

 実は伊藤には気になっている国があるとか。 「3、4年前からトルクメニスタンが気になっていて、そこで現役を辞められたらという思いもあります。ただ、いろんな角度からチームにコンタクトできないかと動いてきたのですが、トルクメニスタンは中央アジアの北朝鮮と言われているだけになかなか情報がなくて。国として裕福で、治安も悪くなく、国民の多くが幸せを感じて暮らしているとのことで、何とかチャンスがあれば現地でプレーして、自分の目で見てみたいと思ったんです。オファーがあれば、明日にでも行っちゃうかもしれません」  アジアの渡り鳥、伊藤壇の旅は、まだまだ続きそうである。 ⇒【資料】はコチラ(所属した国・地域とクラブ一覧) https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1344137
所属した国・地域とクラブ一覧

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取材・文/栗原正夫 写真提供/伊藤 壇 撮影/遠藤修哉(本誌)
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