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中国のハイテク技術が「世界標準」になることの脅威――急成長の裏に倫理観やプライバシーの軽視が…

人工知能が人間を裁く「AI裁判官」登場か

AIロボット

AIロボットを利用した最新の画像診断システム。医療分野の成長は最も期待されている

 このように、中国は次世代モビリティの目玉である自動走行や最先端医療の分野で破竹の勢いを見せているが、何が問題なのか。テクノロジーメディア「ロボティア」編集長・河鐘基氏は指摘する。 「中国におけるテクノロジーの急速な進化を懸念する人たちはまず、その『倫理観』を危惧しています。例えば日本の最高裁判所にあたる最高人民法院は、7月に『AI裁判官』を実用化していく可能性を示唆しました。また、すでに上海では警察の捜査を支援するAIが導入されている。司法や治安維持の場で、人間の権利侵害や、ときに人の命に関わるケースも出てくるでしょう。こうした、人工知能が人間を裁く行為は日本や欧米ではまだまだ議論が必要で、研究もできません」  中国ではこうした議論を後回しにしてテクノロジー優先で突っ走っているというわけだ。 「自動走行の安全基準もそのひとつ。安全性をあまり考慮せず、実証実験を次から次へとしかける中国産AIが世界基準となればどうか。世界中で重大な事故が起きるのではないかという懸念が生まれて当然です。もうひとつはデータ流出への不安です。中国産の製品やサービスが世界で展開されれば、自ずと個人情報も中国企業に集まることになる。それがどういう形で中国政府に使われ、利用されるかが未知数なのです」(河氏)  大げさかもしれないが、世界中の人々の個人情報や行動データが中国によって管理できる状況になれば、それはもう悪夢でしかない。  では、倫理や個人情報に関する議論が起こらないのはなぜか。 「中国人はそもそも個人情報にあまり関心がない。しかも、お上の決定には順応するか、利用してやろうという発想がまず先にくる。国が『テクノロジーは善』としている限り、反対する動きが国内で生まれることはまずないでしょう。現状では個人情報を守ることより、テクノロジーの発展で受ける恩恵が大きいという特徴もあります」(川ノ上氏)  例えば、フィンテックの分野ではすでに中国はスマホ決済が浸透してキャッシュレス社会が到来しつつあるが、一度、慣れてしまえば便利すぎて前の暮らしには戻れない。「大企業や政府に個人情報を握られても、実害を被らない限り批判の声が上がることはまずない」(同)のだという。  官民一丸となってテクノロジー強国に邁進している中国では、先進国の倫理観やプライバシー保護を強いるのは不可能だ。加えて、自浄作用も期待できそうにない。 「カンファレンスでは中国人の参加者が多いのに、自律的に思考するAIに潜む倫理的問題点を討論するパネルディスカッションに彼らの参加は少ない。要は技術を使ってガンガン攻め、どんどん作ることが主眼に見える」(栗原氏)  圧倒的なスピードで進化する中国発のハイテク技術が世界標準になってしまえば、日本にも予想外の副作用をもたらすかもしれない。 <中国がリードするハイテク技術分野> ●自動走行(米中が優位) 世界各国の自動車メーカー・IT企業が参入を公言するなか、中国勢の動きが活発。自動車ハード開発ではまだ後れを取っているものの、投資・実験環境は米国を追い越す勢い。 ●ドローン(中国が優位) ドローンメーカー世界最大手・DJIを擁する中国勢が、世界的にも圧倒的な市場シェアを誇る。その勢いに米国も警戒。8月には米軍から同社製品を排除することを決定した ●フィンテック(中国が優位) 中国ではショッピングから飲食まであらゆるシーンでキャッシュレス化が進んでいる。アリババが本社を構える杭州市はタクシーのキャッシュレス化が98%、商店も90%以上 ●ヘルスケア×AI(中国が優位) 個人情報に対する意識の低さを追い風に、ゲノム解析企業が躍進。一方、日本では改正個人保護法で「病歴」が要配慮個人情報に指定され、厳重な扱いが義務化されている ●産業用ロボット(日独が優位) ファナック、安川電機などを誇る日本が世界市場では優位。しかし昨年に中国・ミデアグループがドイツの大手産業用ロボットメーカー・KUKAを買収して話題となった ●サービスロボット(米中が優位) 関連市場の約9割を占める「ロボット掃除機」と「家庭用AIスピーカー」は、iRobot、アマゾンなど米国企業が独占。中国から世界的なキラー製品はまだ生まれていないようだ 写真/AFP=時事 ― 倫理なき「中国ハイテク技術」が地球を滅ぼす ―
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