風俗は「逃げ道」。気持ちは普通の恋愛
尾崎:とりわけ『
ロマンス暴風域』は「風俗嬢との恋愛」という部分にぐらっときますよね。ある意味、キャッチーじゃないですか。
鳥飼:そうそう、実際そのキャッチーさにSPA!の編集が食いついたことで連載が始まったんですよ。
尾崎:それって、男にとって逃げ道になるんですよね。「自分はちょっと変わったことをしてるんだ」という言い訳で誤魔化せるから。
鳥飼:ああ、そうかもしれない。
尾崎:でも実際は普通となんら変わりなく真面目に恋愛をしてるから、そのぶん傷つくんでしょうね。
鳥飼:苦しいな、それ……。『ロマ暴』は、実際に風俗嬢に恋をしてしまった男性の友人の話がベースになっているのですが、私自身は女性だし、風俗を怖いと思う気持ちもあるからまったく共感できていなくて。でもそう説明されたら腑に落ちました。
――尾崎さんの小説『
祐介』の主人公も、風俗で知り合った女のコに恋をしていますよね。
尾崎:恋愛のくだりは空想ですけど、ピンサロのくだりはそのままです。普通、飲んだ勢いとかで繰り出すんでしょうけど、前の日に友達と打ち合わせをして、ちゃんと早めに寝て朝飯を食ってから行きました(笑)。
鳥飼:準備万全ですね(笑)。
尾崎「初風俗は打ち合わせして、朝飯食ってから行きました」
尾崎:あの時は人生でいちばんドキドキしましたね。なんかこう、店内でテクノの音楽が流れていて。
鳥飼:アゲてくるんですね!
尾崎:もうブチあげてきますよ。
鳥飼:で、アガったんですか?
尾崎:アガりましたねぇ(笑)。中学生がタバコを吸ったりする感覚と同じで男ってそういう話ができるようになること自体に憧れがあるんです。異性と話すときのコミュニケーションツールとしても使えるし。
鳥飼:ああ、「俺はそういうこともわかってるよ」っていう絶妙にこなれた感じの演出ができますよね。
尾崎:でも、純粋にいい経験だと思えたのはその最初の1回だけです。それ以降はどうしても細かいことが気になっちゃうというか……。
鳥飼:たとえば?
尾崎:なんでいつも肩に蝶のタトゥーが入ってるんだろう、とか。
鳥飼:攻撃と見せかけた防御的な。
尾崎:やっぱり男って、「本当はこんなところにいたくないんだろうな、連れ出してあげたいな」とか甘いことを考えながら女のコを見ているわけですよ。でもそのタトゥーを見た瞬間、「ちげーよ!」と突き放された気分になる(笑)。
鳥飼:「この店があたしの居場所なんだ!」と(笑)。じゃあ、恋愛対象として見ている場合もあるんですね。
尾崎:はい。若い頃はそういう形の出会いも夢見ていました。
――近年ではAV女優や風俗業に憧れる女性の姿も目立つようになりましたが、そうした「なりたい願望」の根っこはどこにあると思いますか。
鳥飼:一人の彼氏に100%かわいがられることよりも、大勢の人たちに20~30%ぐらいずつかわいがられたいと思ったらそういう職業を選ぶのもアリなんじゃないかな。ただ、パッケージ化されたものがあるからこそ成り立つものだとは思います。
尾崎:うんうん。
――たとえば恵比寿マスカッツのようなアイドルユニットの活躍とか?
鳥飼:そういうことも地ならしとしては、あると思います。