エンタメ

クリープハイプ・尾崎世界観×漫画家・鳥飼茜の真面目な“風俗談義”

好奇心より不気味さのほうが勝るように…

鳥飼 茜・漫画家(左)、尾崎世界観・アーティスト(右)――一方、男性が風俗に対して身構えてしまう部分があるとしたらどのあたりにあるんでしょう? 尾崎:初めて会う人と触れ合うという点に尽きますよね。僕は特に、齢を重ねるほど欲望や好奇心よりも知らない人に触れることの不気味さのほうが勝るようになってきました。 鳥飼:若い時は女性を「対象」として捉えきれてなかった? 尾崎:そういうことかもしれないですね。経験値が足りてないからよくわかってなかったけれど、こう、いろんな人に触れれば触れるほどズレがあるのを無視できなくなるというか。そういうことってないですか? 鳥飼:あります、あります。知れば知るほどありますよ。 尾崎:やっぱありますか……よかった、なんだか在庫の確認みたいで申し訳ないですが(笑)。 鳥飼:大丈夫です、取り寄せしなくても(笑)。「これだ!」っていうものに近い人が増えれば増えるほど、そうじゃないときの違和感も大きくなるってことですよね。 尾崎:そうなんです。昔はそういうズレもあったほうが面白いし、豊かだなと思っていたんですけど。 ――ではサトミンのように、30代になっていつのまにか「恋愛弱者」となっていた人たちは、どうすればいい方向に進めると思いますか。 (※サトミン……『ロマンス暴風域』の主人公・佐藤の愛称。30半ばで恋人ナシ、将来性ナシ。普通の恋愛市場から脱落した彼がなけなしの貯金をはたいて行った風俗で、地方出身の風俗嬢・せりかと出会うことから物語が動き出していく) 鳥飼:うーん、仕事を頑張りなさいって言いたい。恋愛で煮詰まってるときは大抵、仕事もうまくいってない。特に男の人は社会的に認められてないとペシャンコになっちゃう。 尾崎:わかります……。しかも若い頃は「それでいい、むしろそれがかっこいい」とか思っていましたからね。平日の午後3時に彼女の部屋にひとり残されて漫画を読みふけりながら公園の子供たちの声を聞いているこの感じ、すごくいいぞって。なんか邦画っぽいぞって(笑)。 鳥飼:邦画っぽい(笑)。でもそれも若いからこそ絵になるんですよね。 尾崎:そうですね。もう30超えたら『ザ・ノンフィクション』にしかならないですからね(笑)。

最高だと思えるのは一瞬。そのためだけに戦い続ける

尾崎:『ロマンス暴風域』に関しては、1巻でここまで描き切ってくれたこと自体が救いだと思います。もし5巻分ぐらいこういう関係が続いていたらと想像すると……。 鳥飼:いや、それはできないですね。私自身、「そんなキナ臭い女はやめろ」っていうタイプだし。これぐらいが付き合いきれる範囲の限界だなと。
鳥飼茜

鳥飼「私自身『そんなキナ臭い女はやめろ』っていうタイプ」

尾崎:でも、一瞬でもハマった感覚があると、それをずっと追い求めてしまう男の心理というのはすごくわかるんですよ。仮に100時間くらい一緒にいた時間があったとすれば、そんなものは1分くらいしかないんだろうけど。その1分をずーっと探してしまう。結果、見つからずにサトミンみたいになるわけですが。 鳥飼:あ~……きっと私はそれを描こうとしたんだ(笑)。そうかあ、彼のような男の人たちはその瞬間をリピートしたいだけなんですかね? 尾崎:たぶん、みんなそうなんだと思います。僕の場合、ライブをしている間いつも違和感みたいなものがつきまとうんです。お客さんはすごく喜んでくれてるし、実際に最高の瞬間がないわけじゃない。でも、そういう時間って、さっきも言ったように本当に一瞬だから。その一瞬を探しながら違和感とずっと戦っている。 鳥飼:私なんか、もう、その瞬間が訪れたと同時に砕け散った、みたいな感覚でいつも生きてます。 尾崎:でも僕も、曲作りに関しては頭に浮かんだ瞬間が一番だなと思います。あとはもう、実際に形にしていく過程でどんどん下がっていく。だからできた瞬間の高さに一番近い位置でなんとか作品にしたいなといつも思っています。 鳥飼:しかも曲は漫画と違って、作り手が演奏を通じてその感覚を何回もなぞることになるんですよね? 尾崎:そうなんですよ。でも僕たちの場合はライブでやればやるほどお客さんの反応が良くなるという側面がありますから。繰り返すことで曲の認知度が上がって喜んでもらえる。そういう面では恵まれていると思います。ちなみに漫画の読者だって何回も読むんじゃないんですか? 鳥飼:そういうものでありたいなと思いますけど、難しいですよ、実際。 尾崎:鳥飼さんの漫画の場合はいい意味で何回も読ませない感じですけどね。そういう力を感じます。 鳥飼:なにしろ「怖い」から疲れちゃうのかな。じゃあ年1回、それでもダメなら4年に1回とかでもいいんでまた読んでください(笑)。 「最高の一瞬」を追って、ぎこちなさと戦い続ける二人。不器用でも、すれ違いながらでも戦う姿こそが男女の真実に最も近いのかもしれない。 【尾崎世界観】 ’84年、東京都生まれ。’12年にデビューの4人組ロックバンド「クリープハイプ」のVo.兼Gt.。’16年には半自伝的小説『祐介』(文藝春秋)を発表、文筆業でも注目を集める。11月5日、クリープハイプとして小藪千豊氏主催の音楽フェス「KOYABU SONIC」に出演決定。 【鳥飼 茜】 ’81年、大阪府生まれ。今月23日に『ロマンス暴風域』第1巻、『先生の白い嘘』最終8巻、『鳥飼茜の地獄でガールズトーク』が3冊同時発売されたばかり。ほかに、「前略、前進の君」(小学館)、「マンダリン・ジプシーキャットの籠城」(KADOKAWA)を連載中。 取材・文/倉本さおり 撮影/杉原洋平 ヘアメイク/高野雄一(鳥飼茜)、谷本慧(尾崎世界観)
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