みっちり、こってり、たっぷりの全日本プロレスにおなかいっぱい――フミ斎藤のプロレス読本#151[馬場さんワールド編6]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サッカーのワールドカップじゃないけれど、そこにいる人びとは“ファン”ではなくて“サポーター”である。
サポーターだから、試合はひとりでも観にいくし、友だちといっしょだったら思いっきり声を出して打てば響く応援ができる。
金曜の夜の6時半は、社会人にとってはそわそわしながらちょっと早めに仕事を切りあげなければ“開演”にまにあわない微妙な時間帯だ。
この日、日本武道館に足を運んだ1万5300人のサポーターのほとんどは、ちょうど6週間まえの金曜の夜は東京ドームの観客席に座っていたのだろう。
あのときはゴールデンウィークの初日で、いまは6月のまんなか。全日本プロレスには全日本プロレスのカレンダーがある。
お客さんは、ぼちぼちやって来る。電光掲示板は“世界ジュニアヘビー級選手権試合”というオレンジ色の文字を映し出していた。“世界”の上には――外国のプロレス組織を指す――英語の頭文字がついていない。
このリングでは、ジュニアヘビー級のタイトルマッチが第2試合にレイアウトされている。試合の途中でアリーナに入ってくる観客は、お行儀よく静かに席につく。
舞台演出らしい舞台演出は、ほんとうにアリーナ東側と北側の電光掲示板だけだ。場内が一瞬、暗転になったかと思ったら、横断幕スタイルの電光掲示板に“満員御礼”のごあいさつが浮かびあがった。
再び照明がともると、こんどはジャイアント馬場のテーマ曲『王者の魂』が武道館に響きわたった。いつのまにか、3階席のいちばん上までいっぱいになっていた。馬場さんの試合にまにあえば“遅刻”にはならない。
馬場さん、ラッシャー木村、百田光雄組対渕正信、永源遥、泉田純組の6人タッグマッチが終わると、マイティ井上の引退セレモニーがはじまった。
「夢のような、すばらしい30年間でした。プロレスラーになって、ほんとうによかったと思います」
“10カウント”のゴングはなし。体力の限界を感じリングを降りる井上は、レフェリー転向を希望した。
全日本プロレスのサポーターは、全日本プロレスの選手たちのことを親しい知人をみるような目でみている。
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