更新日:2022年12月17日 22:26
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世界中で勃発する「スニーカー暴行」事件史――シュプリーム渋谷店は氷山の一角、最高転売益700万円を巡る争い

暴力

ボルティモア暴動で参加者がニューバランス「990」を着用

 また、思い起こされるのは2015年に起きたボルティモア暴動。黒人男性が白人警察に拘束された後に死亡した事件を巡り、抗議デモが発生。一部の人が暴徒化したのだ。その際、参加者の多くがニューバランスの「990」を着用。暴動とは無関係であるとNB社がアナウンスする事態となった。この騒動の裏にはストリートシーンにおいて、スニーカーがステータスアイテム、成功の証となっている価値観がある。暴動に加わった多くは黒人のドラッグディーラー。彼らにとってニューバランスのスニーカー、特に上位機種の「990」はストリートビジネスの勝者たるシンボルなのだ。  元々、歴代大統領や大御所デザイナー、ラルフローレンの愛用で知られ、セレブ寄りのイメージを持つニューバランス。非常に高価で、インテリジェンスを感じさせる一足だからこそ、かえってダーティな層から支持されるのかもしれない。この暴動後、アーティストやラッパーにニューバランスの「990」旋風が巻き起こったのは皮肉なことだが。  スニーカーにまつわる暴力問題について、サプライヤーであるスポーツブランドの多くが口を閉ざしている。AJシリーズを販売しているジョーダンブランドの副代表、ハワード・H・ホワイトはあるインタビューで言った。「自分が求めるスニーカーを暴力によって得る。そう発想する人間がいることに心を痛めている。皆が嫌な気持ちになる事件はないほうが良い」。それでも、人気モデルのロットが増えることはない。憧れのスニーカーが合法的に欲しければ、終わりの見えない行列に並んで当たりくじを引くか、パソコンにかじりついて予約購入ボタンをクリックし続けるか、法外な金額で取引するか。いずれにせよ、望む人々すべてに傑作モデルが行き渡ることはないのである。<文/金井幸男>
編集プロダクション勤務を経て、2002年にフリーランスとして独立。GETON!(学習研究社)、ストリートJACK(KK ベストセラーズ)、スマート(宝島社)、411、GOOUT、THE DAY(すべて三栄書房)など、ファッション誌を中心に活動する。また、紙媒体だけでなくOCEANSウェブやDiyer(s)をはじめとするWEBマガジンも担当。その他、ペットや美容、グルメ、スポーツ、カルチャーといった多ジャンルに携わり、メディア問わず寄稿している。
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