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自衛隊が訓練するほど、騒音の反対運動が起きてしまうジレンマ

「米軍のF-18がNLP(Night Landing Practice:夜間離着陸訓練)を始めると、温厚なボクでも抗議の電話をしようかなと思うくらいにうるさかった」。  受験生時代に厚木基地の近くに住んでいた人が、基地周辺の騒音についてそう語ってくれました。このNLPというのは、FCLP(Field Carrier Landing Practice:陸上空母離着陸訓練)のうち夜間に実施するものを言い、空母艦載機が行う「陸上滑走路を空母の飛行甲板に見立て、タッチアンドゴーを繰り返す」夜間飛行訓練のことです。空母飛行甲板として地上のある一点を定め、そこに着陸したと同時にエンジンを全開して離陸するのです。  これは着艦に失敗した場合を想定した手順で、この一連の動作の訓練を繰り返すために、通常の空港では考えられないような爆音が発生します。このNLPは、艦載機パイロットの技量を最高に維持するには絶対に必要な訓練とされています。またこの技量はずっと維持しなければならないものですから、この訓練は頻繁に行われ、それに伴う騒音も続くわけです。  海上自衛隊と米海軍が利用する厚木基地では、第5次厚木騒音訴訟が行われていて、原告側は「自衛隊機と米軍機の飛行差し止めが認められるまでやる」と言っていました。しかし、日本の国内法では在日米軍を縛ることはできません。だから騒音訴訟があっても米空母艦載機は訓練を止めることなく続けることができたのです。それでも、近隣住民の騒音ストレス軽減も考え、米空母艦載機は岩国に移駐することになりました。  「自衛隊の飛行機の騒音が許せない」と訴訟が起き、提訴した側が勝った場合、自衛隊の基地では訓練範囲や訓練回数、夜間訓練の制限ができるため、未来の空母艦載機に限らず自衛隊の航空機全てが訴訟により、練度を保てなくなる可能性が常にあります。  完全な飛行差し止めにならなくとも、NLPなどができず、パイロットスキルを維持することが難しくなるのは否めません。進入路なども騒音に配慮して制限されますし、訓練空域も住民との話し合いで制限されます。訓練空域が基地から遠いと、進出・帰投に燃料を消費するため現地での訓練時間が短く、十分な訓練ができなかったりします。航空機の訓練領空域、飛行時間が制限されてしまうとやはり訓練の質や量に影響が出てしまうのです。  「国を守るため必要」な訓練でも差し止められる可能性もあるのです。ブルーインパルスの曲芸飛行ですら訴訟になる国です。何があってもおかしくないのです。「軍」じゃない自衛隊の訓練には思いもよらぬ国内の障害があるのです。  「国民の皆様のご理解があってこその自衛隊です」という言葉を自衛隊の人々はよく口にしますが、この言葉の深い意味を突然理解したような気がしました。国民の基地への反対があれば国は守れないのです。そら(空)恐ろしいってこういう事でしょうか。  「国破れて山河あり」。この言葉の意味は理解したくないですね。<文/小笠原理恵> 国防ジャーナリスト。関西外語大卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。2009年、ブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。2014年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。自衛隊が抱えるさまざまな問題を国会に上げる地道な活動を行っている。月刊正論や月刊WiLL等のオピニオン誌にも寄稿。日刊SPA!の本連載で問題提起した基地内のトイレットペーパーの「自費負担問題」は国会でも取り上げられた。9月1日に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)を上梓
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