日本人は意外と知らない北斎の魅力…「北斎サミットジャパン委員会」設立が発表
近年、“葛飾北斎”を目にする機会が増えたように思う。たとえば、クリスチャン・ディオールが北斎にオマージュを捧げたドレスを発表。今年はユニクロが北斎の代表作「冨嶽三十六景」からインスパイアされたTシャツをリリースした。アサヒ飲料からは「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴(通称赤富士)」、「東都浅草本願寺」をラベルにデザインした日本茶が発売されている。北斎といえば、江戸時代に活躍した浮世絵師だ。なぜいま、北斎なのか……。
1998年にアメリカライフ誌が選んだ「この1000年間に世界に影響を与えた100傑」の1人でもある北斎。ゴッホ、モネ、ドビュッシーなど世界の芸術家たちにも影響を与えた。日本人であれば、だれもが知る“波”の絵は、海外では“グレートウェーブ”と呼ばれ、ダ・ヴィンチのモナリザに匹敵するほど知名度があると言われている。
2010年代には、ベルリン、パリ、ロンドン、ボストン、ローマ、フィレンツェ、東京、大阪など世界の大都市にあるナショナル美術館で大々的な北斎展が開催されてきた。こうした世界で起きている北斎ブームは、150年前の欧米で吹き荒れたジャポニズムの再来なのか、日本の文化・文明を求めている証ではないか……!?
2019年は北斎の170回忌にあたり、2020年には東京オリンピックを控えている。そこで、北斎を日本の誇りに、その偉業と業績を国内外に周知するため、「北斎サミットジャパン委員会」が設立された。
6月12日(火)に記者発表が行われ、委員長を務めるノンフィクション作家の神山典士氏がその設立趣旨をこう説明。
「世界と国内で取材を続けたが、欧米のほうが北斎の人気が高いんです。日本では知ってはいるけど、歌麿や広重もいるよね……と、そこまでではない。もっとリスペクトするべきだと思った。世界から日本を見たとき、『大自然の富士山』『歴史の京都』『エンタテインメントの東京』。これにもうひとつ、「アートの北斎」。それだけ世界では評価されており、4大コンテンツとして(打ち出すのに)相応しいものであろうと考えています」
要するに、北斎を“観光インバウンド”の切り札に位置づけるというのだ。北斎サミット委員で墨田小布施北斎プロジェクト共同代表、墨田区久米繊維会長の久米信行氏がこう話す。
「5月に日本・スウェーデンの外交関係樹立150周年のイベントでスウェーデンに行ってきました。現地でも外国人から北斎や日本のことをたくさん聞かれた。すごく人気が高いのですが、『北斎の旅をしたい』と言われてもワンストップで見れるホームページや相談できる場所もない。どうやって歩いたらいいのかもわからない。また、北斎だけではなく、アニメやゲーム、食べ物。あらゆるものが日本文化。それらぜんぶを味わいたいというニーズに応えられるよう、みんなで知恵や意見を出し合って。このプロジェクトが、日本の文化を味わい尽くすためのきっかけになればと考えています」
北斎の世界的な人気や知名度にかんして美術商・北斎漫画世界一コレクターの浦上満氏がこうコメント。
「欧米でジャポニズムの扉を開いたのは北斎漫画だと言われている。日本で一番有名なアーティストは間違いなく北斎です。アメリカライフ誌が選んだ『この1000年間に世界に影響を与えた100傑』に、日本人で唯一100位以内(86位)に入りました。政治家や文学者、科学者がいたっていないなかで、北斎だけなんです」
とはいえ、その魅力を日本人は意外と知らない。
「私はコレクションの多くは外国から買い戻しました。彼らはすごい大事にしていて状態が良かったのですが。私たちは、身近にあるものを大切なものだと思いません。外国人のほうが先に良さを見つけた。それに対して、学者たちは『日本でも売れていたのだからそんなことはない』と言うのですが、形にして教えてくれたのは外国人だと思います。たとえば、グレートウェーブが去年ニューヨークのオークションに出たときは1億円の値がつきました」
日本には北斎という誇るものがある。浦上氏は、北斎の良さを世界に発信していくためには、まずは私たち日本人が再認識し、知らなければならないのだと語った。
北斎サミット委員の1人で、創業1590年の株式会社伊場仙・代表取締役社長の吉田誠男氏がこう話す。
「伊場仙は400年に渡って日本橋で続いているのですが、元々は団扇(うちわ)を作っていました。表には絵を印刷しないと売れないということで浮世絵の美術で団扇絵という領域を我々が築いた。一方で、浮世絵の版元としてもやっていた。それがボストン美術館などにも所蔵されている。いつかはうちの版を里帰りさせたいのですが、東京や日本橋には浮世絵を展示する場所がない。ぜひとも北斎の墨田区の美術館も含め、インバウンドということで、外国人に日本の優れた文化を知ってもらいたい」
観光庁観光資源課地域資源活用推進室長の根来恭子氏が北斎サミットジャパン委員会の設立にあたりメッセージを寄せた。
「観光庁では、訪日外国人旅行者の皆様に日本全国津々浦々を訪れていただきたいと考えており、北斎ツーリズムによって、北斎の聖地である墨田や小布施をはじめ、冨嶽三十六景や諸国瀧廻り、諸国名橋奇覧などの作品の世界を堪能していただけることを期待しております」
今後、北斎サミットジャパン委員会は具体的に以下の3点を中心に活動していくそうだ。
北斎は晩年の80歳代になってから、居住していた東京の墨田区から長野県の小布施町まで約250kmを4往復して創作活動を展開していた。その足跡を世界の北斎ファンとともに辿る「巡礼の旅」を開催。日程は9月4日(火)~16日(日)。申し込みは7月1日開始予定。専用Webサイトも開設される。
来年で北斎の170回忌を迎える。これまでの北斎の偉業と業績を顕彰。小布施町観光協会や墨田区観光協会などと協力しながら、日本が世界に誇る江戸文化として次代に継承し、世界に向けて発信していく。
日本より世界で評価が高い北斎。北斎を観光インバウンドの切り札コンテンツとして関係自治体と観光業界団体が結集し、統一した北斎イメージや情報を提供する。また、北斎ファンクラブを結成し、国内での認知度をあげていく。<取材・文・撮影/藤井敦年>明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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