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北朝鮮で「身柄拘束」されたらどうなる? 経験者が語る実態

案内人の目を盗んで単独行動に出た?

北朝鮮「取り調べでは『日本人に見せるためのもので、決して北朝鮮人には見せない』と説明して、どうにか納得してもらいました。結局、調書を取られ数時間で解放されたが、スマホは没収されましたね。当局はアドレス帳やメールのやり取りを当然チェックしたはずです。仮に、内調(内閣情報調査室)や公安(調査庁)と関係があれば拘束されていたはず。  北朝鮮を旅行すると必ず案内人2人が随行しますが、彼らは当局や市民と旅行者がトラブルになるのを防ぐ役割を負っている。旅行者を無事に帰国させるのが仕事なので、むしろ旅行者を守っているわけです。もちろん監視目的の意味合いはあるが、案内人を鬱陶しく思って勝手な行動を取ればトラブルになるのは当然のこと。  おそらく今回の杉本氏のケースも、案内人の目を盗んで単独行動に出たことが拘束された理由なのではないか。南浦は、軍の施設がある町として知られていますし」  米国の北朝鮮専門サイト「38ノース」によると、北朝鮮がこれまで公開してきた金正恩委員長が現場指導を行っている場所の多くは、「南浦特別市箴進里(チャムジンリ)にある北朝鮮でもっとも古い弾道ミサイル生産施設付近」と伝えている。  一方、初沢氏が言うように、旅行者が日本の情報機関と繫がっていれば、当然、厳しい目を向けられることになる。’99年に「スパイ容疑」で拘束され、2年2か月にわたり北朝鮮で抑留生活を送った元日経新聞記者でジャーナリストの杉嶋岑(たかし)が話す。 「’86年に日朝平和友好使節団『アジア平和の船』の訪朝団に参加したのをきっかけに、同僚の記者から内調の人を紹介されて、北朝鮮を旅行したときのビデオ映像や写真を提供していました。  ただ、私が回っていたのはあくまで通常の旅行者が訪れるルートで、高度な国家機密など含まれているわけもなかった。つまり、『スパイ活動』に当たるとは考えもしなかったのです。日本のためになれば……純粋にそう思って渡していたのですが、5度目の訪朝を終えて空港に向かう際、クルマに乗せられて平壌市内のホテルに連行されました」  その後の取り調べは苛烈を極めたという。杉嶋氏が続ける。 「5回ほど軟禁場所を転々としたが、施設によって食事や住環境が大きく異なるので苦労しました。郊外の山荘のような場所では、冬には気温がマイナス25度にもなるのにオンドル(床暖房)もなく、室内でもマイナス15度の寒さ。2年2か月の間に風呂には6回しか入れず、食事の米飯には粟が混じり、ときには小石まで入っていた。  私が何か言えば日本に迷惑がかかる……。そう思って、黙秘を貫き自殺を試みたこともあったが、長期にわたる取り調べでわかったのは、私が内調や公安に渡していた情報のすべてが、北朝鮮当局に筒抜けだったということ……。  日本の情報機関の杜撰さは今も変わっていないように感じますが、’02年9月の日朝国交正常化交渉が始まる前に、私を取り巻く状況は一変し、その後、突然解放されることとなったのです。北朝鮮は私の身柄を交渉の取引材料にしようとしたものの、日本政府がまったく応じなかったため、これ以上拘束していても意味がないと判断したのでしょう。今回の杉本さんも、北朝鮮側が日朝交渉に向けて外交カードにならないと判断したことで解放されたのではないか」  外務省も「自粛」を呼び掛けているかの国への渡航は、くれぐれも注意すべきだろう。 ●安倍首相は意欲見せるも日朝会談は実現可能か? 8月28日、米紙ワシントン・ポストは、北村滋内閣情報官と北朝鮮のキム・ソンヘ統一戦線策略室長が7月にベトナムで極秘に会談していたと報じた。3日にはシンガポールで河野太郎外相が李容浩外相と接触。安倍晋三首相も日朝首脳会談実現に意欲を見せているなかで起きた事件だけに、外交カードとなってしまうことを懸念する声もあった
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週刊SPA!9/11号(9/4発売)

表紙の人/きゃりーぱみゅぱみゅ

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