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プロ野球「伝説の日本シリーズ」を振り返る。0勝3敗から巨人逆転、楽天マー君の奮闘劇etc.…

 10月27日より、「SMBC日本シリーズ2018」が始まる。長いレギュラーシーズンを上位で終え、その後に行われる「クライマックスシリーズ」というトーナメントを突破したセ・パ両リーグの1チームが、日本一の称号をかけて戦うカップ戦だ。  今年は、セ・リーグを圧倒的な力で勝ち抜いた広島東洋カープと、パ・リーグで優勝を果たした埼玉西武ライオンズを、クライマックスシリーズで倒し勝ち上がった福岡ソフトバンクホークスが雌雄を決する。  今年も名勝負が見られそうな日本シリーズ。そこで、楽しみな頂上決戦が始まる前に、過去の名勝負や、伝説の日本シリーズを振り返っておこう。
日本野球機構

今年は、カープ対ホークスの対戦となった日本シリーズ。下馬評ではホークス有利との声も多いが果たして……?(画像は、日本野球機構のホームページより)

1989年の日本シリーズ:「巨人はロッテより弱い」!?

 読売ジャイアンツと近鉄バファローズが戦った1989年の日本シリーズでは、ある一人の選手の言葉が、流れを決定的に変えてしまったといわれている。  バファローズが開幕から3連勝し、シリーズ制覇まであと1勝と迫った第3戦後のインタビュー。当時の報道によれば、先発投手であった加藤哲郎(54歳)が「巨人は(シーズン最下位だった)ロッテより弱い」と発言したというのだ。  実は加藤、この試合よりもシーズンの方が大変だったという感想を素直に答えただけで、ジャイアンツを侮辱する意図はなかったそう。しかし、この騒動によって心に火がついたらしいジャイアンツの選手たちは、3連敗後の4連勝を見事に達成し、日本シリーズを制覇したのだった。

2013年の日本シリーズ:マー君の置き土産

 現在ではニューヨーク・ヤンキースで活躍する、“マー君”こと田中将大(29歳)。彼の、渡米前の最後のシーズンであった2013年の日本シリーズも、伝説に残るようなものだった。  まず田中は、シーズン中の快投ラッシュがすごかった。開幕から負けなしの24連勝を飾り、日本プロ野球における新記録を樹立。東北楽天ゴールデンイーグルスの日本シリーズ初進出に、大きく貢献する。  そしてイーグルスは、相対するジャイアンツの巨大戦力にも負けず、意外な伏兵の大活躍もあって、第7戦までもつれたシリーズを制覇。球団創設時は目も当てられないような弱小球団だったが、それから9年というスピードで、悲願の日本一を獲得するまでとなったのだ。  それもこれも、田中の獅子奮迅の活躍がなければ叶わなかったこと。第2戦と第6戦で先発していた彼は、第7戦でも9回からリリーフを務め、最高の置き土産を残してメジャーリーグに羽ばたいていったといえるだろう。

1992年の日本シリーズ:日本シリーズの最高傑作

 森祇晶(81歳)率いるライオンズが、野村克也(83歳)率いるヤクルトスワローズを4勝3敗で倒した日本シリーズは、今なお多くの野球ファンの記憶に残り、一部では「(日本シリーズの)最高傑作」とまで評価されている。  名将同士の対戦となったシリーズは、開幕前から両監督の舌戦がスタートし、メディアを通してお互いが揺さぶり合うという事態に。その後も秘策を尽くした両者の戦いは続き、7試合中4試合が延長戦で、しかも第5戦からの3試合はすべて延長にもつれ込むという、白熱した展開となった。  この死闘を制したライオンズは前年と合わせ、同一球団による日本シリーズ連覇を達成。ライオンズの圧倒的な強さを、世間に知らしめたのである。
森祇晶

名監督として名高い森祇晶。92年の日本シリーズで見せた采配は、野球ファンたちをうならせるものだった(『情の野球 知の野球』PHP研究所)

2007年の日本シリーズ:完全試合寸前の投手交代

 北海道日本ハムファイターズとの日本シリーズで、王手をかけていた中日ドラゴンズ。勝てば日本一という試合で、山井大介(40歳)は一人のランナーも出さず、完全試合ペースで投げ続けていた。  8回まで完璧に抑えていた山井。当然、次の回も登板するものと思われていたのだが、監督の落合博満(64歳)と投手コーチの森繁和(63歳)は交代を決断。最終回には、守護神であった岩瀬仁紀(43歳)がマウンドに送られたのだ。山井の大記録よりもチームの勝利を優先する采配に、世間からは大ブーイングが起こった。  のちに明かされた話では、このとき山井は指のマメをつぶしており、それが交代の一因になったのだという。岩瀬も後続を完璧に抑え、継投による完全試合は達成されたし、ドラゴンズも日本一になったのだが……なんともいえない後味の悪さが残ったのは確かだ。
采配

勝つための采配なのは理解できるが……多くの野球ファンたちは、偉業達成の瞬間を見たかったというのが本音だろう(『采配』ダイヤモンド社)

2010年の日本シリーズ:史上最大の下剋上

 シーズンを3位で終えていた千葉ロッテマリーンズだったが、クライマックスシリーズでは強さを発揮。捕手の里崎智也(42歳)は「最高の下剋上を見せる」と意気込み、それが「史上最大の下剋上」というチーム全体の合言葉にもつながって、日本シリーズでも躍動した。  リーグでも優勝し、クライマックスシリーズでも安定した強さを見せていたドラゴンズが日本シリーズの相手だったが、勢いに乗ったマリーンズは4勝2敗1分でシリーズを制覇。プロ野球史上初めて、リーグ戦3位からの日本シリーズ優勝を果たしたのである。

 ――数多くの名シーンを生んできた日本シリーズ。野球選手の夢の場所であり、思いが詰まった戦いだからこそ、こうした劇的なドラマが起こるのだろう。広島と福岡を舞台に行われる2018年の決戦でも、素晴らしい熱戦が見られることを期待したい。<文/後藤拓也(A4studio)>
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