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ブラジルのスラムに10年住んだ日本男性の生き様。会社を辞めて写真家になった理由

 そして出版されたキャリア初となる写真集『ホマンチコ』は、次の言葉で結ばれている。伊藤氏が注いできたものが、ここに集約されているだろう。 <サバイバルする者への憧れ。この写真集はそんな彼らの勇姿にロマンスを感じ、近づいていった記録である。「死」を身近に感じることのできる人間だけが、その反対の「生」をより濃く生きようとするものなのかもしれない> ボクサー

海外にいたからこそ、日本をピュアに見ることができる

 ブラジルで長く生活するなかで、結婚して子どもができるなど、自身の状況は大きく変わった。そして2016年、日本に帰国。今後はどう生きるつもりなのか。 「別にファベーラで撮り切ったとは思わないが、もう撮りたい写真はないなって。ここにいたら、それこそ宿のオヤジで終わると思った。やることはやったから、違うものが撮りたくなった。ブラジルのことわざで“家族が正しい道に導く”というのがある。 幸い、これまでの活動で(広告撮影など)いろんな仕事をもらえるようにもなった。だから、これからは家族に迷惑をかけないように、なるべく普通のオヤジになりたいというのもある(笑)」  どこまでもまっすぐ、素直な気持ちを言葉にする伊藤氏。キャリア初の写真集を出版したが、本音をこう続ける。 「会社を辞めてからずっと海外で撮り続けてきて、一冊にまとめてみたら、あれだけか、とも思った。もちろん、選んだ写真の背景にある部分も含めて、それ以外にもたくさんあるけど。日本に帰ってきた直後は、もはや自分がなにを撮りたいのかわからなかった。 ファベーラで撮れなかったときもそうだったけど、うだうだ考えているときは本当に苦しい。ようやく最近、自分が次に撮るべきものが見えてきた。ずっと海外にいたからこそ、日本にあるものでピュアにホマンチコ(ロマンチック)だって思えることがある。 それをなるべく早く形にするため、1000本ノックみたいに行動している最中ですね」 <取材・文/藤井敦年>
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスとして様々な雑誌や書籍・ムック・Webメディアで経験を積み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi
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ROMÂNTICO
「クレイジージャーニー」出演で大反響。 リオのファベーラに10年住み、そこに暮らす人々のリアルな日常を切り取る写真家・伊藤大輔初作品集。ブックデザインはMATCH and Companyの町口景が手がける。

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