数独を解く大腸菌? トンデモ論文の知られざる世界
―[世界の[トンデモ研究論文]大集合]―
― 世界の[トンデモ研究論文]大集合(1) ―
数独を解く大腸菌、ブンチョウはピカソ好き……
研究者たちの激しすぎるパッションに脱帽
◆キテレツな論文が魅力的な理由
「おしっこを我慢すると判断力が上がる」だの、「人はポルノのことだと予知能力が上がる」だの、「ブンチョウはモネよりピカソのようなキュビズムが好き」だの。ときおり、大層な大学の立派な研究者による「トンデモ論文」、「おもしろ論文」が伝えられる。
「なんだそりゃあ?」と思いつつも、我々はこうした研究論文が大好きである。そして、いつも気になるのは、なぜ? なんのために!? ということ。
例えば、昨年末、iGEMとかいう合成生物学の世界大会で銀賞を受賞したのは、「数独を解く大腸菌」なのである。各大腸菌が数字とマス目の情報を持ち、同時に関係のないマス目からの情報はシャットアウトするようにし、4×4の数独を大腸菌が解けるようになる、らしい。もちろんそれは無害な大腸菌。にしても、なんで大腸菌が数独!? ということで研究を行った東京大学iGEM UT—Tokyo2011を訪ねた。
代表の福島正哉さんによると、「『数独を解く大腸菌』は昨年の研究で……僕が入ったときにはもうテーマが決まっていたので、なぜ大腸菌に数独だったのかはわからないんです」とのこと。
では、今年のプロジェクトは?と聞くと、「放射性物質を回収する大腸菌」なんだとか。まあ、タイムリーではあるけれど……。
「放射線を浴びると生物のDNAはダメージを受けます。が、その際、DNAを直そうという反応も生じるんです。大腸菌にそうした反応が起きたら、たんぱく質を合成するよう遺伝子を組み込むと、その大腸菌が『放射線探知機』となります。さらに、ある物質を出すことで、『放射線に向かっていく』という性質も持たせることができるんです」
……何がなんだかわからないが、すごいことだけはわかった!
「合成生物学はゼロから何かを発見して新しいことをつくりあげていく、というものではないんです。生物がもともと持つ機能をパーツ化して、そのパーツごとの機能を遺伝子の組み換えによって書き換えて、まったく違う動きを持つ菌をつくっていく学問。メンバーは大学の学部を超えて集まっていて、例えば、医学部の僕と分子生物学の専攻の人間とは、生物を見るスケールが違う。そこはおもしろいですね」
まだ彼らは大学の学部生。卵とはいえ、研究に携わる彼らと、こちら側の見ているスケールが違うのも間違いはなく、だからこそ、その発想に驚かされるのかも。
「一見してバカげてないアイデアには見込みがない」と言ったのはアインシュタインだが、一見してバカげたことができにくくなっているのが我々である。
次ページではここ1年の間に発表された研究論文を中心に紹介。それらに我々が惹きつけられるのは、そこに研究者たちのユーモアと情熱が溢れているからなのだ。
取材・文/田山奈津子 古澤誠一郎(オフィス・チタン)牧 沙織 鈴木靖子(本誌)
撮影/山形健司 イラスト/坂川りえ ハッシュタグ