発達障害グレーゾーンの葛藤「診断が出た人が羨ましい」
そもそも発達障害の診断は、国際的な診断基準マニュアルにのっとり医師から下されるものだ。しかし障害の濃淡や範囲は千差万別で医師にも線引きは非常に難しく、生きづらさから抜け出せない人は多い。都内のビル清掃会社で働く白根和明さん(仮名・34歳)も発達障害のグレーゾーンとして生きづらさを抱える一人だ。
「学生時代、クラスメートが盛り上がっている理由や教師に怒られている意味がわからずに『変なヤツ』扱いされることはありました。でも、勉強もできたし劣等感を覚えたことはありませんでした。
『俺っておかしいのかな』と自覚したのは大学時代のバイト経験。矢継ぎ早に飛んでくる店長の指示に臨機応変に対応できなかったり、客に『少々お待ちください』と伝えたきり忘れてしまい店の前で30分待たせてクレームが入ったりと、どれもうまくこなせずバイトを3回立て続けにクビになったんです」
西脇氏は「子供の頃は大目に見られていた発達障害の傾向が大人になって露呈し発覚するケースは少なくない」と話す。それでも白根さんは大学卒業後、アパレルメーカーに入社。だが、入社早々に取引先とのトラブルを頻発させ、1年で退社。結局どの仕事も3年と続かず、2年前から清掃の仕事に就いている。
「清掃の仕事は苦手な人付き合いもないし、やることが毎日決められているのでなんとかこなせています。発達障害についてテレビで知ったのは3年前。『これだ』と思い病院へ行くも、医師からは『ASDの傾向はあるけど、あなたは健常者の範疇です』と言われるのみ。
『結局すべてお前の努力が足りないだけだ』と社会から無能の烙印を押されたようで絶望したのを覚えています。診断が下りることがすべてじゃないとは頭ではわかっているけど、周囲から『ただの無能』扱いされるのはもう苦しい。正直、診断が下りている人が羨ましいなと思ってますね……」
診断が下りれば、精神障害者保健福祉手帳が取得でき、就労支援を受けられるほか、税金や公共料金の割引も適用される。しかし白根さんの場合、そうした外的な補助よりも自身が直面する“生きづらさの正体”を目に見える形で欲しているようだ。
― [生きづらい病]の正体 ―
「診断が出た人が羨ましい」グレーゾーンの葛藤
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