更新日:2023年03月22日 09:39
仕事

退職代行業者を使ったら、会社から損害請求も!? 無資格業者のトラブルが続出

「仕事を辞めたいのに、なかなか言い出せない」――そんな人に代わって、退職の意を会社に告げてくれる退職代行サービス。メディアでも頻繁に取り上げられ、ブラック企業の対抗策として急速な拡がりをみせている。 4-1 しかしその実、闇は深い。 「実は以前から、弁護士の資格を持たない“非弁退職代行業者”によるトラブルは後を絶ちません。弁護士の資格を持たない無資格者が、報酬を得る目的で法律事務を行うことは非弁行為にあたり、禁止されています。にもかかわらず、これまでも多くの分野で『違法な非弁業者』が後を絶たず、逮捕されて罪に問われた事例もあります。  たとえば過去には、無資格業者が行っていた『インターネット上のネガティブ情報削除代行』が裁判所で『弁護士法違反』と判断されています。また、弁護士でないのに敷金返還請求を有料で行うサイトを運営していた業者が逮捕されたことも。このように、本来は弁護士資格が必要な法律事務を無資格者が報酬を取ってビジネスとして行うことは『違法』と判断されているのです。  ただ、『無資格ビジネス』も依頼者が結果に満足していればそもそも発覚しません。違法行為が発覚し、逮捕にまで至るのは、依頼者とトラブルになったから。表面的な浅い知識しか持たない『無資格者』が、依頼者を思わぬトラブルに巻き込んでしまうのは、ある意味当然であるといえます」  そう指摘するのは、数多くの退職代行案件を請け負ってきた嵩原(たけはら)安三郎弁護士だ。退職代行の現場を知り尽くす嵩原氏に、今起きている“リアルな事件”を聞いた。

引き継ぎが難航。会社に巨額の損害も

 東海地方にある建設会社A社に務めていた内藤秀実さん(40代、仮名)の例を挙げよう。 サラリーマン 当時、A社で公共工事の入札手続きを担当していた内藤さんは、ネットで目にした退職代行業者に依頼をした。業者はすぐに内藤さんの勤務先に電話をし、退職の意思を伝達。内藤さんは「今後、会社からの連絡には一切応じなくていい」と告げられたという。  しかし当時は人手不足もあり、入札業務に関わっていたのは内藤さんただひとり。内藤さんの携帯には会社から1日に数十件近く着信が残るようになった。 「電話、本当にでなくていいんでしょうか……」  不安になった内藤さんは依頼した退職代行業者に相談をした。だが、回答は「(電話には)出なくていい」の一点張り。  たしかに退職の意思は伝えられたものの、引き継ぎはまったくできていない。このままでは公共工事の入札に参加できず、A社に巨額の損失が発生してしまう──。  なぜこのようなことが起こるのか。前出の嵩原弁護士の解説はこうだ。 「無資格業者が報酬をもらって依頼者に代わって勤務先会社と交渉することや、依頼者に代わって勤務先とやりとりすることは、弁護士法によって禁止されています。だから無資格業者(非弁業者)のサイトを見ると『私たちは交渉しません。会社に伝言するだけです』と書いてあるわけです。  そもそもこの『伝言』自体も弁護士法違反ではないか、という指摘もありますが、それをさておき、退職代行の現場では、ただ『辞めます』と伝えて終わり、ということはほとんどありません。会社側も法的知識は不十分ですので、実際にはほとんどのケースで私たちは『会社に退職を認めさせる交渉や話し合い』を行っています。  また、退職が認められても、引き継ぎや荷物の処理、残った有給をどうするか? など話し合うべきことは多い。それに最近では、経営者層にも『退職代行』という言葉が浸透してきました。そのため、非弁業者が会社に連絡しても、『退職代行? ああ、どうせ弁護士じゃなかったら交渉できないんでしょ』と門前払いされる事例も出てきているようです。  このような場合でも、非弁業者は会社とのやりとりを『しない』、というより『できない』。その結果、必要な引継ぎができないまま放置されてしまう。そのことで会社に思わぬ巨額の損害を与えてしまうこともあるのです」  このケースの場合、入札手続き前日に内藤さんが弁護士に相談し、きちんと会社に引き継ぎをしたことで事なきを得た。しかし最悪の場合、損害請求訴訟に発展しかねない状況だったという。
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有給もゼロ? 依頼者は不利な条件に泣き寝入り
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