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日本の中古電車がインドネシアに大量輸出されるワケ

消えたスマホがインドネシアで発見された

 ここでもうひとつ、インドネシアへ輸出された中古車両にまつわるエピソードを紹介しよう。とある青年が、JR南武線の車両内でスマホを紛失した。まるで煙のように消えてしまい、どこにあるのか分からない。仕方なく、青年はスマホを諦める羽目になった。  それから数か月後、青年のFacebookに「あなたのスマホを預かっている」という連絡があった。このメッセージを送ったのは、なんとインドネシアの鉄道技師。青年のスマホはシートの隙間に落ちていたのだが、誰にも発見されないまま車両ごとインドネシアに輸出されていたというのが話のオチである。
krl

現在はジャカルタを走る元JR東日本の205系車両。以前は南武線などで使われていた。ピンクに塗装されている前列の車両は女性専用で、終日男子禁制となる

 鉄道がつないだ日尼友好の話として、現地のSNSでも話題になった。また、KRLの運営会社には日本からエンジニアが出向している。日本の鉄道は世界的に見ても長い歴史を持つが、車両だけでなくそれを運行するためのノウハウもインドネシアに譲渡されているというわけだ。

日本製の都市高速鉄道

 また、このKRLとは別にジャカルタ市内の南北を貫くMRT(都市高速鉄道)が今年開業した。これは円借款を活用し、複数の日系企業が建設に関わった路線である。車両も日本製で、こちらは新造である。  ジャカルタのタムリン通りからスディルマン通りにかけては、この都市の動脈とも言えるメインストリート。ところが、これに沿う形の鉄道が今までなかった。そのため、タムリンからスディルマンに至る車道はまさに動脈硬化のような渋滞が発生していた。  MRTは、その状況を劇的に変化させつつある。その上、MRTが「観光の目玉」ともなっている。  インドネシアはイスラム教徒が優勢の国だから、断食月(ラマダン)というのがある。それが明けると1年で最大のバカンスシーズンがやって来る。地方からジャカルタへの出稼ぎ労働者が帰郷するのはこの時期だが、逆に地方からジャカルタへやって来る観光客も多い。  今年の断食明け休暇は、その観光客がMRTに押し寄せたのだ。これは見方を変えれば、日本製の鉄道をインドネシア国民に体験してもらう絶好の機会でもある。日本の「鉄道外交」は、少しずつではあるが着実に実を結んでいる。<文/澤田真一>
ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー
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