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第542回 9月30日「オリンピックと万博とSF」

・今年は中国SFが日本の出版界をも賑わせた。ケン・リュウ(『紙の動物園』)やリウ・ツーシン(『三体』)の勢いは説明するまでもないだろう。これらの作品群が日本語版で読めるようになったことは本当にありがたい……のだが、このトレンドは中国の10年前だと考えると寂しくなる。英語圏で注目され評価されたのも5,6年前。僕らは世界の潮流からずいぶん遅れているのである。30年くらい前、中国人の留学生に「なぜ日本語を勉強しているの?」と聞いたら「世界じゅうのたいていの本が日本語で読めるからです」と言われたことがある。すっかり状況が変わったのだ。 ・今更ながら10年前の中国のことを思い返してみる。北京オリンピック(2008年)から上海万博(2010年)当時の中国には確かに独特の高揚感があり、それが創作の世界をも刺激していたことは間違いなさそうだ。ちょうどこの頃から中国のニュース番組を見ている(CCTVはスカパー! 他で見られる)のだが、人が宇宙に行き雲をつく摩天楼が建造され超音速鉄道の実験に成功し……と、最先端ハイテク系の報道が激増していた。若い人たちはワクワクしながら貪欲に情報を吸収し、世界に羽ばたく機会を虎視眈々と狙っていたはずだ。体制からの圧迫感も相当なものだったことは間違いないが、それもまたSF的体験だったといえるだろう。例えば情報コントロールについてグーグルと独裁政府のどっちが怖いか。そんなことを真剣に考える機会も、若い作家にとっては(結果的に)大きな資産となったのではないか。 ・日本でも1964年の東京オリンピックから1970年の大阪万博の時期、産業経済の高度成長に(そして政治的軋轢にも)負けない勢いでSFが盛り上がった。この時期このシーンに躍り出てきたのが星新一、小松左京、筒井康隆といった作家群だ。そして手塚治虫や藤子・F・不二雄をはじめ多くの漫画家が活躍したのも、そこに隣接した場所だった。この高揚が漫画からアニメそしてゲームへと受け継がれ、現在に至るまで日本のコンテンツ産業の下支えとなっているのだ。 ・21世紀の東京オリンピックや大阪万博は、日本の若者に夢を与え、刺激することができているのか。そこがいちばん重要なところだと思うのだけど、どうだろう。 作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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