更新日:2019年07月22日 15:36
エンタメ

第539回 7月22日「1985年の『十三機兵防衛圏』」

・たまにはゲームの話。『十三機兵防衛圏』(PS4/アトラス+ヴァニラウェア)について。本編は11月発売予定だが、冒頭がプレイできるプロローグ版がすでに発売されている。各所でこれについて語っていたら、先週公式生放送に呼んで頂いた。 ・13人の少年少女が時間転移を繰り返しながら地球規模の滅亡危機と戦うストーリーで、過去のできごとに干渉して歴史を書き換えるだけでなく人の記憶を消したり上書きしたりする、つまりアイデンティティーを入れ替える設定もあり、これによって登場人物それぞれの目的や敵味方関係までが絶えず変化していく。 ・例えば「未来の自分から過去の自分へのメッセージ」もあれば「過去の自分から(記憶変造で別人になった)未来の自分へのメッセージ」もあるわけだ。このあたり、ターミネーターやBTTFというよりはP.K.ディックみが強めか。 ・ゲームとは時間と空間を同時に閉じ込めることができるメディアだ。タイムトラベル/タイムパラドックスものにおいては、映画や小説では絶対に不可能だった物語を作り込むことができる。ただしそのためにはとてつもなく膨大かつ緻密な作業が必要となるわけである。各シークエンスの因果関係が有機的に変動しながら影響しあう立体的なシナリオ構造は、最終的に矛盾なくつながるのか? この野心的な試みは果たして成就するのか?  ……そんな余計や心配までしてしまうゲームは久々である。 ・少年少女たちは1945・1985・2025・2065・2105……と、40年おきの時空を行き来するが、最も重要な舞台は「1985年」の日本である。この微妙な近過去の日常描写が面白い。ビデオデッキが爆発的に普及し、ありとあらゆる映画が初めてパッケージ化されていった時期だ。映画館やテレビでは見られないようなマニアックな映画がビデオでどんどんリリースされた。物語中、登場人物の高校生たちはSFや特撮もののカルト映画にはまっていて、ビデオショップに通っては掘り出し物を探している。 ・テレビゲームの黎明期でもあった。出始めだった家庭用ゲーム機を持っているクラスメートの家に集まろうとしている描写もある。ネットがなかった時代の高校生がどういうふうに映画やゲームを楽しんでいたか、わかりやすく再現されている。この時代に青春を送った映画好きでゲーム好きの人がシナリオを書いている感じが伝わってくる。 ・番組では1985年に渡辺浩弐がやっていたことを話してほしいと言われ、マイ土蔵を発掘してきた。当時はビデオ情報誌がたくさん出ていた頃で、僕はそういうところにカルト映画やホラー映画の紹介や評論を書いていた。またゲームの攻略動画をビデオ化する仕事を始めた頃でもあった。そんな雑誌やビデオソフトを持ってきて当時の話=オタク第1世代の話をしたわけだが、マフィア梶田さんほか出演者のめんめんはその頃まだ生まれてもなかったということに気づき、それはそれで衝撃だった。
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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