過去のジョーカーは一切参照していない
肉体面での準備も怠っていない。この役のために、フェニックスは20㎏以上も体重を落としたのだ。
「薬物を常用している人たちについてリサーチしたら、ほとんどの人は副作用で極端に痩せているか、太っているかのどちらかだった。それで『僕は太ることにしようと思うんだ』と言うと、『いや、痩せてもらえないかな』と言われてしまって……。太るほうなら、ハンバーガーとかフレンチフライを山ほど食べればいいだけで、ラクだったのに(笑)。
でも、アーサーは栄養失調気味で弱々しい人物としたほうが役に合っているから、痩せるのが正解だった。それに、これは自分でも予測しなかったんだけど、あそこまで痩せると体の動きが変わるんだよ。身のこなしのためにも、肉体改造をしたことのメリットは大きかったと思う」
劇中でアーサーは、階段でダンスをしたり、ピエロのパフォーマンスを披露したりもする。
「あのシーンに関しては、コレオグラファー(振付師)の手助けも受けている。彼がレイ・ボルジャーの歌とダンスをやってみせてくれたとき、顎を上に向けて歩いたりするその傲慢な雰囲気に、『これこそジョーカーだ』と思ったんだ。ずっと内向的だったアーサーがついにジョーカーになるとき、彼はああいう態度になるんだなって。
とはいえ、具体的な動きは事前に決められていたわけではなく、現場で自然に生まれていったものだよ」
ジョーカーは、過去にも名優たちが挑んできた役だ。ヒース・レジャーはクリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』(’08年)でこの役を演じ、死後オスカーを受賞したし、その前はティム・バートン監督の『バットマン』(’89年)でジャック・ニコルソンが、最近では『スーサイド・スクワッド』(1’6年)でジャレッド・レトが演じた。しかし、フェニックスは彼らの演技を一切意識していないという。
「『バットマン』と『ダークナイト』は、さすがに公開時に劇場で見ているけどね。でも、今作の撮影が終わって2か月ほどたって、たまたまテレビでノーランの映画をやっていたんだけど、何も覚えていなかったよ(笑)。
ヒースの演技があまりに素晴らしかったから、そのインパクトだけは強烈に残っていたけど、具体的なシーンはひとつも記憶していなかった。原作コミックも含め、僕は何もリサーチしていないし、影響も受けていない。トッドと2人で一から自由に作り上げていくことこそ、今作における目標だったんだ」
そんな彼が生み出したオリジナリティあふれるジョーカーで、本作はヴェネツィア国際映画祭の金獅子賞受賞という快挙を成し遂げた。歴代ジョーカーと並び、今後将来にわたって語り継がれ、人々の心にインパクトを残し続けるに違いない。
●『ジョーカー』
大道芸人として生きるアーサーが、いかに狂気あふれる『バットマン』の名ヴィラン・ジョーカーに変貌したかの誕生秘話を描く。’19年/アメリカ/2時間2分 監督/トッド・フィリップス 出演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロほか 配給/ワーナー・ブラザース映画 全国公開中
【ホアキン・フェニックス】
’74年、プエルトリコ生まれ。’00年『グラディエーター』をはじめ、米アカデミー賞に3度ノミネート。’17年『ビューティフル・デイ』ではカンヌ映画祭最優秀男優賞を受賞した
▼歴代ジョーカーを演じた名優たちをチェック!
<ジャック・ニコルソン>
『バットマン』(’89年)……マフィアの一員だった男が、バットマンとの銃撃戦で薬液漬けになり肌は漂白、顔はひきつり、ジョーカーと名乗り始める。『シャイニング』(’80年)の狂気を彷彿とさせ、主人公よりも話題に
<ヒース・レジャー>
『ダークナイト』(’08年)……過去は定かでなく、正体不明のヴィランとして悪の限りを尽くす。ヒース・レジャーは『時計じかけのオレンジ』(’71年)のアレックスなど、さまざまな作品を参考に役作りした
<ジャレッド・レト>
『スーサイド・スクワッド』(’16年)……スーサイド・スクワッドの一員、ハーレイ・クインが心許す唯一のギャングのボスとして登場。細マッチョに鍛え上げたジャレッド・レトにより神経質で無敵感のあるヴィランに
取材・文/猿渡由紀 ©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics