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クリント・イーストウッドが89歳になっても年1本映画を撮り続ける執念とは?

リチャード・ジュエル

クリント・イーストウッド氏

『リチャード・ジュエル』は、製作までにとても長い期間を要しながら、同時にとてもすばやく撮影された映画だ。  本作で描かれるのは、’96年のアトランタオリンピックで起きた爆弾事件。不審なバックパックを発見し、被害を小さく食い止めた人物としてヒーロー扱いされた警備員リチャード・ジュエルは、数日後に一転して容疑者と報じられ全米を騒がせた。  その顛末が映画化されることになり、クリント・イーストウッドのところに脚本が回ってきたのは’15年のこと。プロジェクトは20世紀フォックスの手元にあったため、長年ワーナー・ブラザースで映画を作ってきた彼は、両社に共同製作を提案して企画は動きだすが、ここでひと悶着が起こる。 「いよいよ準備万端のタイミングになって、フォックスのトップがややこしいことを言い出してね。弁護士に相談すると、『彼らは本気でこのプロジェクトをやりたくないんでしょう』と言う。だったらやめたほうがいいと思い、そのときは別の映画を作ったんだ」
リチャード・ジュエル

©2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BVI) LIMITED, WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

 それでも、この事件が彼の頭を離れることはなく、’18年、次回作の構想を練るなかで、再び映画化が浮上する。 「ちょうどフォックスがディズニーに買収された頃でね。ディズニーのトップのアラン・ホーンは、昔ワーナーのトップだった人で私とはよく知る仲だ。改めて一緒にこれを撮らないかと持ちかけると、『ワーナーだけでやっていい』と言う。そこで、あっさりと私のところへ舞い戻ってきたんだよ」  そこからはスムーズだった。主演俳優には、イーストウッドが「まさにジュエルを演じるために生まれてきたような人」というポール・ウォルター・ハウザーを抜擢。ジュエルの母親役にキャシー・ベイツを思いつくと、彼女もふたつ返事でこれを引き受けた。 「さらなるリサーチもしたし、脚本のリライトもしたが、みんなこのプロジェクトに情熱を持っていて、すごいスピードで進んだから、撮るのはとても楽しかった。この話は、冤罪という大きな悲劇を描いているが、以前もきっと似たようなことはあっただろうし、これからもまた起こり得ると思う」  罪のないジュエルを悪人に仕立て上げたのは、“ありがちな犯人像”にとらわれたFBIと、他社に先駆けてスクープを出そうと焦った地元の新聞だ。“フェイクニュース”という言葉もなかった当時、世間は報道されたことを鵜呑みにしてしまったのだ。 「でも、今は当時よりもっとひどいと思うよ。情報が溢れすぎているし、しょっちゅう捻じ曲げられる。早く報じることが何より重視されるせいさ。昔は『見るものの半分を信じろ。聞くことは信じるな』という言葉があった。今は、見るものも聞くことも信じないほうがいい。  リチャード・ジュエルの場合も、まさにそうだった。あの新聞は、ジュエル犯人説でいくと決めた以上、それで突き進むしかなかったんだ。他のメディアも追従し、それぞれに過熱した報道を続けた。途中、『どこまでが真実なのか』と疑った人もいたと思うよ。私は、常に疑うよう意識している。ニュースはどれも、本当かもしれないし、そうじゃないかもしれない」  だからこそ、常にスマホを握り続け、SNSの情報に振り回されている現代人の姿勢には疑問を感じるという。 「今、この部屋に歩いてくる途中、廊下ですれ違った人たちは、みんな手にした携帯を見つめていた。レストランでも、カップルが会話をするのでなく、それぞれの携帯を見ていたりする。世の中はスマホに支配されてしまったみたいだ。せっかく素敵なところに旅行をしても、体感するのではなく、携帯で他人に見せるための写真を撮るのに夢中。残念なことだと思うよ」
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90歳になるのは、また80歳になるのと同じ
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●『リチャード・ジュエル
19年/アメリカ/2時間11分 監督・製作/クリント・イーストウッド 出演/サム・ロックウェル、キャシー・ベイツほか 配給/ワーナー・ブラザース映画 全国公開中
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