更新日:2023年04月27日 09:59
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サンマ不漁の原因は、本当に中国の乱獲か?

前近代的な日本漁業の根本的な改革が急務

 ここまではサンマ側の事情を紹介したが、次は人間側の事情を見てみよう。つまり、外国漁船は獲りすぎなのか、という問題である。ちなみに最新のデータ(’18 年)では、サンマ漁獲量の世界ランキングは1位台湾(18万t)、2位日本(13万t)、3位中国(9万t)。水産分野で長らく現地取材を続けているフリーライターの松岡久蔵氏によれば、ランキングの数字以上に、中国の胃袋のサイズは飛び抜けているという。 「サンマが安くておいしいと台湾でブームになり、’80年代からサンマ漁を始めました。それが中国にも輸出されて広がり、’10年代に入ると中国も自前の漁獲量を伸ばしていったんです。中国の漁獲9万tに加えて、共産党黙認の違法漁船が獲る5万t、さらに台湾からも大量に買い付けていて、中国は実質30万tを消費しています」  最盛期には58万tを誇った日本のサンマ漁獲量はいまや激減しているが、当時は日本しかサンマを獲っていなかっただけのこと。ライバルの増加とともに漁獲量が減るのは当然の流れか。  しかもこうした外国漁船は大型で遠い公海上での操業に対応する先進的な装備を積んでいるが、これに比べて我が国の漁船は貧弱そのものだ。 「中国や台湾は500t以上の大型漁船を繰り出し、その後ろには冷凍船が控えています。一度の漁で大量に獲ってすぐに冷凍し、そのまま1か月ほど洋上にいて漁を続けるんです。一方、日本のサンマ漁は日帰りを想定しているため、多くは中小型船で、生鮮販売を目的としているため、一度に獲れる数も限られています」(松岡氏)  つまり、日本の中小型漁船は日本近海でしか操業できないが、中国や台湾の大型船は、日本近海を飛び越えたさらに東の公海上で大規模に漁をできるというわけだ。  ただ、このように日本が中小型船でしか漁ができないのには理由がある。前出の小松氏はサンマ漁業の本質的な問題を指摘する。 「漁業法とその関連政令によれば、北緯34度、東経139度、つまり東京から北、本州から東の海域でのサンマ漁業は棒受網を使用せよとあります。また、農林水産省令の第百条では同範囲で棒受網漁業以外のサンマ漁業は不可とされているのです。ところが外国では、大型の棒受網で漁獲能力の高い漁法を使っている」  この一見不合理な規定が残っているのは、零細ながらも数を抱える棒受網漁船の漁師たちの政治力ゆえ。彼らの棒受網漁業の船は大きくても199t。さらに大型船に投資できる漁業者や企業がサンマ漁に参入することに反対してきた。このため日本のサンマ漁は中小型船がひしめくことになり、外国漁船がいる公海では太刀打ちが厳しい。日本も冷凍・凍結設備を持つ大型漁船で操業する体質改善をする時代だと小松氏は主張する。 「生態系や環境の変化により日本近海に回遊してくるサンマが激減している以上、制度を改正してほかの漁業者・会社もサンマを公海で漁獲できるようにすべきです。日本の政治家や官僚が旧態依然とした制度を放置している間に外国は近代化を遂げ、今や日本は完全に競争に取り残されています」  悪いのは外国だと騒ぐだけでいいのか。そう小松氏は結んだ。
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消費者はそこまでサンマを欲していない?
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