更新日:2023年04月27日 09:59
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サンマ不漁の原因は、本当に中国の乱獲か?

消費者はそこまでサンマを欲していない?

 一方、小松氏の主張に対して、当然ながら現場の漁師たちは猛反発。前出の松岡氏は、港で聞いてきた彼らの声をこう代弁する。 「大規模化するにしても、漁師は高齢化が進んでいて、経営面でも肉体面でも体力がなく、大型船で洋上で戦えるかと言われたら厳しい。船を造るにも1~2年かかるし、注文が立て込めば10年待ちもあり得る。そこまで待てる漁師がどれだけいるでしょうか」  さらに松岡氏は、供給サイド以上に、「国民は果たしてサンマを食べたいのか?」という需要サイドを問題視している。すなわち消費者の「サンマ離れ」である。総務省統計局の「家計調査」によると、一世帯当たりのサンマ支出額は’83年の2065円をピークに低減し、’17年では880円と最低水準となっているのだ。  また、不漁が叫ばれる一方で、スーパーの売れ残りで捨てられている数が多いのも事実だ。 「生鮮にこだわらず冷凍にするなど、まずはそういった食品ロスをなくしていくべきだと思います。『庶民の魚』というほど多くの日本人はサンマを欲しておらず、騒いでいるのは幼少期にたらふく食べていたおっさんだけです」(松岡氏)  下魚だったサンマが、高級魚として店頭に並ぶ日も近いか。

中国が狙う日本の食材

 中国人がサンマの味に目覚めたのは、彼の地の富裕層が日本旅行中にサンマを食べて感動し、帰国後に渇望したのが始まりだという。
サンマの屋台

中国、台湾では焼きサンマは屋台の名物となっている。ファストフード的な存在だ

 そんなサンマの他にも、中国において日本の食材は人気沸騰中だ。特に富裕層が好んで求めており、彼らはもはや中国産の食材など口にしないと言われるほど。この背景にあるのは、中国の食品衛生へのリテラシーの低さだ。残留農薬やメラミン入り粉ミルク、ネズミ肉などを使った偽装肉など多くの事件により、中国産の食品は国内でも信頼が失墜している。  その点、品質管理が徹底され、異物混入の恐れもない日本米の人気は高い。中国でも米は主食のひとつであり、日本食材の中でも日本米は需要が高い。また、富裕層のお気に入り食材の代表格を挙げるなら、筆頭は和牛だろう。近年では中国都市部を中心に牛肉の消費が増大。牛肉人気を受けて、日本の和牛にも注目が集まっている。  ただ、昨年6月には輸出が禁止されている和牛の受精卵が中国に持ち出されそうになり、水際で摘発される騒動が起きている。この他、日本で30 年かけて開発されたシャインマスカットもいつの間にか中国で栽培され、いまでは当たり前のように国内販売されている。  日本の食材が好まれることは大変ありがたい限りだが、フェアな取引があればこそか。 【小松正之氏】 東京財団政策研究所・上席研究員。元水産庁官僚。日米漁業交渉や国際捕鯨委員会など国際会議に多数参加。水産業関連の要職を歴任し現職 【松岡久蔵氏】 フリージャーナリスト。地方紙勤務を経てフリーに。クジラ、和牛などの農林水産業分野をはじめ、葉巻など幅広い分野をカバーする 取材・文/沼澤典史 野中ツトム(清談社) 写真/朝日新聞社 時事通信社 ※週刊SPA!10月29日発売号より
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週刊SPA!11/5・12合併号(10/29発売)

表紙の人/ 福山雅治

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