更新日:2023年04月27日 10:07
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“避難所での犯罪トラブル”を自衛隊は取り締まれない? 盗難、暴行、強盗…

「警察権」を持たない自衛隊員ができること

 自衛隊には警務隊という警察のような部隊があります。警務隊は自衛隊内で起きた犯罪捜査ができる限定された警察権を持っています。しかし、自衛隊員でない者を取り締まる権限はありません。
ヤフオク!

ヤフオク!に出品されていたミニミニ軽機関銃に装着する「薬莢200発」などのセット

 例えば、オークションで自衛隊由来の弾薬などが出品されていた場合、警察に通報することになります。自衛隊が直接、捜査する権限がないからです。例えば、オークションで自衛隊由来の弾薬が出品された場合は真偽も含めて調査したいところですが、自衛隊内の犯罪かどうかわからない場合は着手できません。「自衛隊員が部隊のモノを盗んで出品した」と確証があれば警務隊も捜査できますが、オークションサイトの出品者が自衛官かどうかを捜査できる権限をもつのは警察官です。結局のところ、自衛隊の外で起こる問題は警察官が動かなければ何も始まらないのです。

米国の軍隊にある警察組織の例:NCIS

 米国の人気ドラマシリーズ『NCIS ~ネイビー犯罪捜査班』は海軍の警察の話でした。ドラマにある「NCIS」は実在します。現実のNCISは「法科学捜査」だけはやや誇張ぎみですが、コンピュータ捜査、ポリグラフ捜査、監視、追跡調査、証人保護も行うことができる歴とした連邦捜査官です。専用のパトカーだってあります。国を守るための「反テロリズム、テロ対策、大規模国際詐欺、コンピュータ犯罪と防諜活動」も管轄となっています。「軍の弾薬が持ち出されてオークションに出品されているらしい」いう事案があれば、直接、軍のなかにある「NCIS」が捜査することも可能です。せめてこの程度の警察権は必要だと思います。

“避難所トラブル”は警察も対処しにくい

自衛隊

陸上自衛隊Facebookより

 我が国では犯罪者の人権を擁護する風潮が高く、仮に捜査して空振りだった場合は警察官が告発される危険があります。「警察にネットでの誹謗中傷やネットストーカー犯罪を告発したのになかなか動いてくれない」と嘆く人がいます。インターネット上のトラブルは個人の特定が難しく、警察官ですら法律で動きが制限され、身動きが取れない行政機関の一つなのです。警察よりも法律上の縛りの強い自衛官はなおさらです。  避難所でのトラブルも、明らかな犯罪行為であれば、警察に通報できます。しかし、犯罪と断じていいのか見極めにくいグレーゾーンのトラブルでは警察ですら動けません。災害時は警察も交通網も寸断され警備や誘導に追われて大忙しです。避難所に近いところにいる自衛隊が避難所で起こるトラブルに割って入れる権限があればと期待する人も多いでしょう。しかし、権限のない自衛官には無理です。権限と免責がなければ、民事トラブルに対処できません。やはり我が国の加害者優先の制度では強力な介入は難しいのかなと思います。  私たちの生活を守るはずの警察や自衛隊を始めとする公務員の予算や権限や権力を削ぐことで、得をするのは誰でしょうか? 私たちは自分たちで自分たちの首を絞めているように思えてなりません。  避難所が必要となるような非常時、また法や秩序の箍が外れた有事において、丸腰の私たちは自力で自分たちの身を守るしかない。そんな結論にため息が出ます。
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot


自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う

日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる……

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