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ゴーン被告が8日会見へ。日本人には理解できない“海外逃亡”という発想の根源

身を守るのはカネと考えるレバノン人の性

カルロス・ゴーン被告の自宅前

’20年1月1日、レバノンにあるカルロス・ゴーン被告の自宅前には、テレビの女性リポーターなど多くの報道陣が駆けつけた

 ゴーン被告はブラジルでレバノン系の両親の間に生まれ、レバノンの首都ベイルートで幼少期を過ごしたが、そんな貧しい国で育ったからこそ大胆な行動に出られた、という見方もできるようだ。天木氏が続ける。 「レバノンは人口600万ほどの小国で資源や産業もなく貧しい国ですから、昔からユダヤ人のように国外に出てビジネスを興す人が多かった。こうした“レバノン・ディアスポラ”(民族離散)からの送金はGDPの1割超を占めるほど莫大で、彼らの投資や送金が国を支えている。そして、彼らのなかでもっとも成功したのがゴーン被告であり、レバノンへの投資や学校の支援などを積極的に行った結果、彼の切手が作られるほど尊敬と羨望を集めていたのです……。  今回の逃亡でフランスのパスポートを2通、ブラジルとレバノンのパスポートをそれぞれ1通所持していたことが話題になったが、何かあったときに国外に脱出する必要があるレバノン人にとっては特別なことではない。長い内戦に苦しんだレバノン人は自らの身を守るのはカネと考える傾向が強いのです」

ゴーン被告による「日本の司法批判」にも一理あり?

 海外メディアも今回の逃亡劇を連日報じているが、ゴーン被告が主張するように日本の司法制度の「欠陥」を指摘する声が多いのも事実だ。過去に東京地検検事として特捜部に配属されたキャリアもある弁護士の郷原信郎氏が話す。 「そもそもゴーン事件で東京地検特捜部が『虚偽記載』としたのは、マスコミが憶測報道してきた『過去に支払われた役員報酬の過少申告』ではなく、まだもらってもいない『退任後に支払う約束の金額』程度の話でした。つまり、検察が企業の内部抗争に介入し無理筋で事件化したところに問題があったのです。  加えて、検察は『人質司法』で無罪主張を抑え込む常套手段で、外国人の容疑者を裁判前に100日以上も収監するなど、先進国としてあり得ない手法を取った。だからこそ当時、海外メディアから批判の声が高まったこともあり、東京地裁は従来の特捜案件ではあり得ない勾留延長請求の却下を決断し早期の保釈も認めたわけです。ただ、今回の逃亡は残念ですね。弁護人も非常に努力し裁判所も理解を示していたので、公判では無罪になる可能性が高かったと思うので」 逮捕以降の流れ 裁判に影響が出るのは必至の状況だ。ゴーン被告の弁護人を務める弘中惇一郎氏は弁護団が辞任を検討していることを明らかにしている。郷原氏が続ける。 「ゴーン被告の側近だったグレッグ・ケリー被告の裁判では、ゴーン被告が有力な証人となるはずだった。ゴーン被告の事件についてはこれまで調書も取られておらず、証拠化もされていないので、レバノンに裁判官、検察官、弁護人が出張して、レバノンの法廷で訊問する道を探るべきです。あるいは、レバノン当局に嘱託して、日本の司法関係者が立ち会うかたちでもいい。ゴーン氏はレバノンから出てこないでしょうが、彼の証言がなければケリー被告の公判は成立しませんから」  ゴーン被告は1月8日に会見を行うとみられている。12月31日に出した声明文でも「ようやくメディアと自由にやり取りできる身となり、来週から始めるつもりだ」と意気込みを綴っていたが……。果たして、今回の逃亡劇をどう正当化するのか? その言葉を待ちたい。

ゴーン被告はレバノンでアウン大統領と「面会」か?

19年12月20日、鈴木馨祐外務副大臣がレバノンを訪れ、アウン大統領と会談していた際、同席者の一人がゴーン被告の送還を何度も働きかけてきたという。これまで複数の海外メディアが、ゴーン被告がレバノン入りした直後にアウン大統領と面会したと報じていたが、これについてレバノン大統領府は2日、報道を否定する声明を発表している 写真/時事通信社 ※週刊SPA!1月7日発売号より
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週刊SPA!1/14/21合併号(1/7発売)

表紙の人/ 森 七菜

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