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<純烈物語>紅白決定時、秘めていた”◯◯のために”へ入る一人の名前<第27回>

10万枚を売ることがどれほど大変か

 現実問題として『純烈のハッピーバースデー』のようにヒット曲を生み出すのが必須である。音楽コンテンツがビジネスになりにくい現代において、10万枚ものCDを売るのがどれほどのことか。それに再び挑戦しなければならない。  ヒット曲を生み出すにも、酒井一圭なりの方法論を模索した。まずは分母となるファンを増やす。当たり前だが、その商品を購入する消費者がいなければ数字は伸びない。  そこは日々の活動の中で地道に支持を伸ばしてきた。売れる作品に必要な分母の手応えを感じたのが、紅白初出場の3年前。本当は、そこからホップ・ステップ・ジャンプでいくつもりだったのだが、世の中の方が先に騒ぎ出しステップの段階で「純烈、今年は紅白か?」というような見出しがチラつくようになった。 「ただ、その時点で僕らは『NHKのど自慢』にも『思い出のメロディー』にも出ていなかった。それを飛び越えて紅白なんて、僕にはイメージが湧かなくて。それで結局、選ばれなかったわけですけど、そういうふうに世間でささやかれていたものだから、期待していたメンバーやスタッフがガッカリしていたんですね。いやいや、俺はまったく出るという感覚がなかったよって。  それでジャンプの年である2018年、幸(みゆき)耕平さんに作品を生み出す上での僕の持っているプロデューサー権限を全部渡して『その代わり、紅白に出られる作品を作ってください』と依頼したんです。そうやってできたのが『プロポーズ』でした」  絵空事としてヒットを狙うのではなく、段階を踏んで機運を見極め、その上で確実性を誇る作家の力を借りる。紅白に出られる曲をなどとオーダーされたらプレッシャーもいいところだが、作曲家であり音楽プロデューサーとして石野真子の『ジュリーがライバル』や小泉今日子の『常夏娘』を世に出した大御所(プロレスファン的にはジャンボ鶴田『明日があるさ』と古舘伊知郎『燃えろ!吠えろ!タイガーマスク』だが)は、完ぺきなまでに応えた。 『純烈のハッピーバースデー』も幸に依頼した上で、クラウンレコード販売促進部の藤田絢野に「10万枚売れるレギュレーションをしてほしい」と最初から告げていた。全部で6タイプあるパッケージングや購入特典企画は、そうした中からひねり出されたものだった。 「お客さんに買わせるという考え方じゃなくて、好きで楽しんでお金を使ってもらう。喜んで使う分はシブらないでしょう。ただ、女性は買い物好きである一方、スーパーで1円でも安かったらこっちで買うという主婦の感覚もあるから、ザルではない。心をこめて考えた上で提示すればちゃんとジャッジしてもらえる。血の通ったことがCDという無機質なものに付随してくるから、この数字につながったんだと思います。  あとは、純烈ならやってみようと引き受けていただけたところが全国にあった。本も平づみにするかしないかで売れ方が大きく変わってくる。ディスプレイの仕方一つで伝わり方が違うわけで、そういうところでタワーレコードさん、HMVさんから町の小さいCDショップまでが純烈をフィーチャーしてくれた。そんな人たちの応援力が、一つの形に結集したのが2度目の紅白なんです」
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“あの人”に向けた酒井の思い
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(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxtfacebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

純烈物語 20-21

「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。

白と黒とハッピー~純烈物語

なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。

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