<純烈物語>NHKホールからスーパー銭湯へ直行! 午前2時半の凱旋ライブで光る48歳<第29回>
「孫といってもおかしくないほどのFoorinへの対抗意識をムキ出しにした」(酒井)結果、紅白用に仕立てたばかりだった衣装のワキの下が自分たちの出番前に破けた。張りきったのに、何もいいことがなかった。世の中、そういうものである。
「小田井さんのような頑張る48歳、今どきテレビじゃ見られませんよ。DA PUMPと一緒にやった時も小田井さんが騒がしいから気配を感じて振り向くんです。DA PUMPは人を立てるけど、問題はあなたですよ。Foorinを負かそうとするんだから」
「いやいや、負かそうと思ったわけじゃないよ。あれほどたくさんいる中で、何回か映ればいいなぐらいに思っていたのが、あんなに映されるとは思わんかったわ。衣装一着台無しにした結果が『純烈のおじさんうるさい』やで。君たちも巻き込まれとったよ。全員、名前さえ書かれておらんというな」
酒井に突っ込まれつつも、ユーモアで返す小田井は夜中の3時近くになっても頑張る48歳だった。整理番号1番(この日は入館料以外無料公演)の人からリクエストを受け付け、それを今から歌うというファンにとっては夢のようなお年玉企画。
「小田井さん、歌入りと今歌うのはどちらがいいですか?」
「歌入りとなると……AI小田井になるな」
歌入りというのは純烈によるボーカルやコーラスの入った通常ヴァージョンで、カラオケだったら生歌を披露するというもの。前者であれば、歌が入っているからそれに合わせて何かができる。そこで小田井が口にしたのは、今年の紅白で話題となったAIだった。
「美空ひばりさんのAIを見た時、横で『俺がAI小田井涼平になったらどうする?』って聞くんですよ。何言っとんや、このオッサンと思いつつも『面白いとは思うけど、ほなら紅白終わったあとのお台場でAI小田井できるものなんですか?』って聞いたら、じゃあ『六本木は嫌い』を歌入りならって言っていたんです。そうしたら今、六本木をリクエストされました!」
「見切り発車すぎて何も練習していないので、ワンコーラス」という条件つきながら、小田井は音源にボーカルを任せ、じつにAIっぽい動きで自身の持ち歌である『六本木は嫌い』を聴かせた。終わるやいなや酒井が「なんで普通にできんねん? 昨日今日じゃできないですよ」と驚きの声をあげるほどのクオリティーだった。
紅白リハーサルの時点でAI美空ひばりを見て「これはいける!」と思い、密かに自宅で持ち歌全曲をシミュレートしたらしい。そんな小田井コーナーのあとは『桜よ散るな』『ふたりで一緒に暮らしましょう』『アカシアの白い花』と、3曲とも後上翔太がメインボーカルを務めるナンバー。この間、他の3人はマイクを置いてラウンドを繰り広げる。普段はマイク片手で回るが、この日は両手を握れるとあり、ファンも大喜びだ。
もちろん後上も、歌いながら手を差し出す。一人で3曲歌いあげた頃には3時15分を過ぎていたが、その空間の中ではあまり深夜という感じがしない。それはメンバーが、どんな時間帯であろうともいつもの純烈のノリでオーディエンスと接していたからだ。
ファンからのリクエスト、AI小田井、後上曲3連発と、通常のステージとはちょっと色を変えることで4人も楽しむような形となった凱旋ライブ。「もうやめようよ、体に毒だよ」などとMCでは言いつつも、終わらせようという素振りがまるでない。
酒井は壇上からクラウンレコードのアーティスト担当・新宮崇志と、マネジャーの山本浩光を呼ぶようスタッフに指示。呼び込み用にアカペラで歌ったのは、夏の甲子園でお馴染み『栄冠は君に輝く』……2人がいずれも元高校野球球児であることは、ファンの間では広く知られている。
まさか真夜中にこの曲を聴くとは……NHKにおける冬と夏の看板番組を、世の中が寝静まったスキを見て数時間で勝手に網羅する純烈だった。
撮影/ヤナガワゴーッ!(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売
『純烈物語 20-21』 「濃厚接触アイドル解散の危機!?」エンタメ界を揺るがしている「コロナ禍」。20年末、3年連続3度目の紅白歌合戦出場を果たした、スーパー銭湯アイドル「純烈」はいかにコロナと戦い、それを乗り越えてきたのか。 |
『白と黒とハッピー~純烈物語』 なぜ純烈は復活できたのか?波乱万丈、結成から2度目の紅白まで。今こそ明かされる「純烈物語」。 |
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ