スポーツ

選抜高校野球「21世紀枠」大金星の歴史。敗れた強豪校は「腹を切りたい」の捨て台詞…

敵将の失言を呼び起こした古豪の底力 2010年第82回大会 向陽(和歌山)

 この大会に出場した向陽は、実はかつての旧制・海草中時代には夏の大会を連覇するなど、戦前の甲子園を代表する古豪でもあった。だが、そんな名門も戦後は低迷し、’74年の第46回選抜を最後に甲子園からは遠ざかっていた。その向陽が21世紀枠ながら36年ぶりに復活。太平洋戦争で戦死した伝説のOB・嶋清一投手(’39年第25回夏の甲子園で5試合すべてを完封して優勝投手に)を通じて平和の尊さを学んでいる点などが評価されのだ。  注目の初戦の相手は前年秋の中国大会王者・開星(島根)。強力打線が自慢だったが、向陽はエース・藤田達也が先輩・嶋清一に負けじと力投。走者は出すものの、決定打を許さなかった。すると打線が応える。4回裏に2四死球で2死一、三塁のチャンスを掴むとここから連続長短打が飛び出し、2点を先取したのだ。この援護点を藤田が必死に守り、最終回に1点を返されたものの、後続を断ち、2-1で見事に勝利。甲子園での勝ち星は実に45年ぶりのことであった。
やくざ監督と呼ばれて ~山陰のピカソ・野々村直通一代記

画像:やくざ監督と呼ばれて ~山陰のピカソ・野々村直通一代記(白夜書房)

 だが、この試合後にちょっとした事件が。対戦校の開星・野々村直通監督が敗戦インタビューで「21世紀枠に負けたのは末代までの恥。腹を切りたい」などと発言したとして大問題に発展したのである。実は向陽は前年秋の近畿大会で初戦敗退も、奈良の強豪・天理相手に3-4という接戦を演じていた。つまり、単なる“21世紀枠”ではなかったというワケ。21世紀枠と侮っていたら、時すでに遅し! であった。

全校一体、見事な下克上 2015年第87回大会 松山東(愛媛)

 21世紀枠で実に82年ぶり2回目の出場を果たした松山東。県内屈指の進学校ながら、この前年の夏秋の県大会で連続準優勝を果たした実力が評価されての選出であったが、その初戦の相手は東京の強豪・二松学舎大付となった。当時の二松学舎は現在、読売巨人軍の若手投手陣の中で期待の左腕とされる大江竜聖が2年生エースとして君臨。打線も切れ目のない攻撃で着実に得点を重ねていく戦い方で試合巧者ぶりを発揮。どうひいき目に見ても松山東の勝ち目はないというのが戦前の下馬評であった。  だが、試合は予想に反して中盤から点の取り合いとなり、6回を終了した時点で4-4と両者がっぷり四つの展開に。ここから抜け出したのが松山東だった。7回表に一死一、二塁からの適時打で1点をリード。そしてこの貴重な1点を守り切って、なんと見事なまでの番狂わせを演じてしまったのだ。実はこの勝利の裏にはこんな話が……。ベンチに入れなかった部員がデータ班となり、ニ松学舎の公式戦をビデオ分析、相手を徹底的に丸裸にしていたのである。  さらにもう一つ、松山東ナインを奮い立たせたものが。82年ぶりの出場ということで、地元・愛媛県からはなんとバス66台分の大応援団が駆けつけた。見渡せば三塁側の松山東アルプススタンドはスクールカラーの緑一色に染まっていたのだ。その大声援が松山東ナインを猛烈に後押ししたのである。まさに全校一体となってのジャイアントキリング、完成であった。  なお、本文では触れなかった向陽と松山東の次戦だが、向陽はまたも強豪・日大三(東京)相手に一歩も引かない大接戦を演じ、惜しくも1-3で敗退。松山東も東海第四(現・東海大札幌=北海道)戦で8回裏に2-0から2-3と逆転されるなど、これまた悔しい敗戦であった。しかもともに勝った両校はこの後、準V校となるだけに、返す返すも無念。つまりそれは普通の公立校でも方法次第では強豪私立と互角に戦えることの証明でもある。今年の選抜にも21世紀枠から3校が出場するが、初戦突破からの旋風を巻き起こす存在になることを期待したい。 <取材・文/上杉純也>
1
2
テキスト アフェリエイト
新Cxenseレコメンドウィジェット
おすすめ記事
おすすめ記事
Cxense媒体横断誘導枠
余白
Pianoアノニマスアンケート